「私の母の世代までは結婚で何とかなった。でも、その意識ではもう、生き残っていけない。そのことを必死に伝えていました」

 雇均法は平成時代にもう一つ、女性の生き方を画期する言葉を生み出した。「負け犬」である。

 エッセイストの酒井順子さんによる『負け犬の遠吠え』がベストセラーになったのは04年。結婚できない自分たちを「負け犬」と自虐しながら、その実像は、生活のために結婚する必要のない、高年収の自立した女性という、高度な皮肉の利いた言葉だった。

 明治の近代化以降、日本という国家は、経済成長のために滅私奉公のサラリーマン労働者を必要とし、彼らを支える装置として「家」と「妻」が設定された。

 しかし、そんな「国家の罠」から抜け出した「負け犬」たちは、景気が停滞する時代にグルメ、旅行、趣味と消費三昧のライフスタイルを謳歌する。

 大手広告会社でコピーライターを務める女性(54)は、その一人。クリスマスイブには、同じ業界の独身女性と都心のマンションに集まり、シャンパンを開けるのが恒例だ。テーブルには、東京中のデパ地下から調達した食べ物とスイーツが並ぶ。

「私たち、今、東京でいちばんおいしいもの、食べてるよねって盛り上がる。で、その次に出てくる言葉は、『……でも、私たち、不幸だね』なんです」

 どんなにお金があっても、結局、足りない。満たされない。

「定年が近づいてきた最近は、『私たち、次の望みは安楽死だね』って、笑い合っているの」

 開放されたら孤独と闇があった。では、仕事も家庭も子どもも……と握力を発揮してみても、その先にあるのは「保活」や「ワンオペ」という果てしない消耗戦。日本女性の婚姻率(人口1千万人あたりの婚姻件数)は、70年代には10.0以上あったものが、16年には5.0に半減。結婚への幻想が薄れるとともに、少子化が深刻な社会課題になっていったことは、いまさらニュースにもならない。

 雇用機会均等、男女参画、女性活躍と題目が整った平成に、日本は国際的な経済力も、大きく低下させた。1人当たり名目GDPは、88年から01年まではほとんど世界のベスト5に日本が入っていたが、17年の順位は25位。G7では、かろうじてイタリアが後に続く状態だ。

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