最多の4部門を獲得したのは、日本でも大ヒットしている「ボヘミアン・ラプソディ」。作品賞は人種差別が色濃い1960年代が舞台の「グリーンブック」が受賞した。今年オスカーを獲得した作品の多くに共通したのは、「移民やマイノリティーへの共感」だった。

「ボヘミアン」でクイーンのボーカルのフレディ・マーキュリー役を演じ、主演男優賞に輝いたラミ・マレックは壇上でこう語った。

「ゲイで移民であっても、悪びれることなく自分の人生を生きた人物の映画を私たちはつくった」

「今夜起こっていることは、私たちがこういう物語を求めていることの証し。私自身、エジプトからの移民の息子だ」

 映画では、アフリカ生まれの移民で性的少数者でもあるフレディが、英国社会で疎外感にさらされながらも、それをはね返し、成功していく姿が描かれている。

 作品賞の「グリーンブック」は60年代に、黒人の天才ピアニストがイタリア系白人の用心棒を運転手に雇い、人種差別が色濃い米南部へコンサートツアーに出かける物語だ。

 いま米国は、トランプが白人至上主義者を擁護したり移民を敵視したりする言葉を繰り返し、国が分断された状態にある。そんななかで、人種差別に立ち向かい、人種を超えて絆を強めていく映画を作品賞に選んだのは、米映画人らの強いメッセージといえるだろう。

 そうしたメッセージは「衣装デザイン賞」など3部門に輝いた「ブラックパンサー」にも共通する。「アフリカの小国が、実は米国を含め現代のどの国をもしのぐ高度なテクノロジーを有しており、ずっと秘密にしていた」という設定で、白人至上主義の逆を行く。ほとんどのキャストが黒人であることも特徴的だ。

 そして、監督賞に輝いたアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」。70年代のメキシコの中流家庭で、静かな家政婦と家族との交流が、温かな視点と美しい映像を通して描かれる。

 折しも、米国では、「メキシコとの国境に壁を築く」と公約してきたトランプが、非常事態宣言までして壁建設に乗りだしている。トランプは、不法移民が善良な米国人を殺害しているとの主張も繰り返している。(国際報道部・尾形聡彦)

AERA 2019年4月1日号より抜粋