『北に生きる猫』は冬には氷点下になる北海道の漁港で暮らす猫たちの写真集。著者にとって初めての書籍となる。お気に入りは、鈍色の空の下、一匹でポツンとたたずんでいる猫の写真。写真家の土肥美帆さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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朝、6時半。始発電車に乗り、さらにバスを乗り継ぐ。北海道の実家から猫たちのいる漁港まで約2時間。それから日が暮れるまで、雪の中で写真を撮り続ける。
2014年の冬、土肥美帆さんがこの場所を訪れたとき、雪の中で元気に走り回っている猫の姿が目に飛び込んできた。
「猫が生きるには、厳しい自然環境だと思うんです。でも、生き生きとした姿に生命力を感じた。命ってすごいと感動しました」
その雪の漁港で4年間かけて撮り続けた猫たちを収めた写真集が『北に生きる猫』だ。土肥さんにとって初めての写真集となる。カメラは独学だが、岩合光昭ネコ写真コンテストで2年連続のグランプリに輝いたのをはじめ、数々の賞を受賞している。また、写真は「ナショナルジオグラフィック」でも記事になり、それを見た編集者の目に留まった。
土肥さんの撮る猫は、決してかわいいだけではない。雪の中で寄り添い、強風のときは足を踏ん張り、太陽の光の温かさにほほえむ、命のかたまりのような猫ばかりだ。
今から12年前、結婚が決まっていた土肥さんにがんが見つかった。死を意識した。家族への遺言のつもりで、自分の愛おしいと思うものを、カメラで撮影するようになった。
「治療の間、孤独な気持ちを支えてくれたのが、写真でした」
結婚し、北海道から大阪へと引っ越し、2回の手術を経て、通院が1カ月に1回、2カ月に1回、3カ月に1回と減っていき、5年が過ぎる頃に治療は終わったが、写真の熱は冷めなかった。
猫を飼い始めたのをきっかけに、外の猫も撮るようになった。そして出会ったのが、北海道でたくましく生きる猫たち。
「もう病気のことは忘れているような毎日でしたが、猫たちを見て、亡くなっていった友人たちや、治療中の気持ちを思い出しました。生も死も肯定する自然の姿を見せてもらった」