手書きとネット合わせて1万3千人以上の署名を区議会事務局の担当者(右)に提出する江田圭一さん(右から2人目)、麗奈さんと娘。陳情は3月の議会で審査される(撮影/編集部・深澤友紀)
手書きとネット合わせて1万3千人以上の署名を区議会事務局の担当者(右)に提出する江田圭一さん(右から2人目)、麗奈さんと娘。陳情は3月の議会で審査される(撮影/編集部・深澤友紀)

 がんの治療などで予防接種の効果がなくなってしまう子どもがいる。再接種費用は合計すると約20万円。多くの自治体で支援がない状況だ。

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 小児がんの治療などで、予防接種ワクチンで得た免疫が失われてしまう子どもたちがいる。東京都北区在住の家族が、再接種への支援を求めて1万3千人以上の署名を集め、2月4日、署名と陳情書を区議会に提出した。再接種には合計すると10万~20万円ほどかかるが、費用を助成している自治体は全国で5%にとどまり、多くは患者たちが自己負担している。北区でも助成はない。

 予防接種には、予防接種法に基づいて自治体が費用を全額負担する「定期接種」と、自費で受ける「任意接種」がある。子ども向けの定期接種は、破傷風や百日ぜきなどを防ぐ四種混合ワクチンや、はしかと風疹を防ぐMRワクチンなど9種類あり、複数回接種が必要なものもある。免疫を失った子どもの再接種は助成の対象外で、1回約1万円が全額自己負担になる。

 厚生労働省の調査によると、2018年7月時点で全国1741自治体のうち、89自治体が再接種費用を独自に助成していた。都内では足立区が12年度から、台東区が19年1月から助成している。

 今回署名の呼びかけを行ったのは会社員の江田麗奈さん(36)と夫の圭一さん(39)。小学1年生の娘(7)は17年秋から体調が悪化し、18年3月に小児がんの一つ「神経芽腫」のステージ4と診断された。入院して抗がん剤治療や自家末梢血幹細胞移植を受け、同年10月に退院。現在は寛解の状態で、退院後半年から1年をめどに予防接種の再接種を予定している。

 国立成育医療研究センター小児がんセンター移植・細胞治療科の加藤元博診療部長によると、小児がんの治療では成人に比べて強力な抗がん剤を使った化学療法が行われる。抗がん剤は免疫力を下げるので、小児がんになる前に受けた予防接種の抗体が弱くなることがあるという。特に、神経芽腫や白血病などは造血幹細胞移植が行われるため、高い確率で予防接種の抗体が低下してしまう。小児がん以外でも、骨髄移植などですでに接種した抗体が低下することがある。

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