稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
年越しはスキヤキ。食べ物にお金をかけない父が精一杯奮発した霜降り肉に父の愛を感じる(写真:本人提供)
年越しはスキヤキ。食べ物にお金をかけない父が精一杯奮発した霜降り肉に父の愛を感じる(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【年越しはスキヤキ。精一杯奮発した霜降り肉に父の愛を感じる】

*  *  *

 みなさまお正月はどう過ごされましたでしょうか。

 私は、1人で暮らす父宅で親子2人で迎える2度目の正月でした。父と娘の距離とはそもそも遠いもの。間に母がいないとどうにもギクシャクします。しかも父81歳、娘53歳ともなれば、お互い考え方に柔軟性が失われている。

 特に、モノを持たない私と、捨てられぬ世代の父との間にはガンジス川並みの意識の差がありまして、「時間がない、ない」とこぼす父に、それはモノが多すぎるからで、いらないものは整理すれば? と叫ぶ娘。いやそれはわかっているのだと父。整理しなければと気は焦る、でも「時間がない」のだと。いやだからそれはモノが多いからで……と娘。ああ出口なし!

 本当にどうしたらいいのかしら。

 しかし数日間向き合ってわかったことがありました。

 父が山ほどモノをため込んでいるのは、どうにか自立してやっていこうという覚悟の表れなのです。保険、株、預金、墓、健康情報、通販書類、各種説明書など、積み重なった書類の山は懸命に分類されていました。「あの書類どこいったかナと思って見つからないのが一番困る」と父。今の人なら必要な情報はネットで調べるのでしょうが父世代はそうもいかない。年相応に忘れっぽくなり、体力も衰え、それでも「家族に迷惑をかけない」ために父は懸命に頑張っているのです。泊まって2日目の朝、寝坊した父が「えみちゃんがいてくれると安心して久しぶりにぐっすり寝た~」と頭をかきながら起き出してきたのを見て、父の頑張りを見てこなかったことを反省したのでした。結局、そんな父に娘は甘えているのです。

 つい文句ばかり言ってしまうけれど、父だって永遠に元気でいてくれるわけじゃない。父のいいところを数えよう。父は社交的で、明るくて、外出が好きで、お節介焼きで、新しいモノにいつも好奇心がいっぱいです。あと、父が作った「特製サラダ」を食べたら案外おいしかった。あの味音痴だった父が、80過ぎて進歩しているのです。

AERA 2019年1月21日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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