秋篠宮さま(左から2人目)の6歳の誕生日を前に、一家で絵本を囲んだ/1971年11月29日、東京・元赤坂の東宮御所で (c)朝日新聞社
秋篠宮さま(左から2人目)の6歳の誕生日を前に、一家で絵本を囲んだ/1971年11月29日、東京・元赤坂の東宮御所で (c)朝日新聞社

 在位30年を迎えた天皇陛下と歩みをともにしてきた皇后美智子さま。その歴史を紐解くうえで欠かせないのが詩や物語の存在。ノンフィクションライターの歌代幸子氏がレポートする。

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 平成最後の一般参賀には最多の15万人が訪れ、皇后美智子さまも笑顔を見せた。昨年10月、84歳の誕生日を迎えた際には長年にわたる天皇陛下の公務への献身と、ともに過ごした60年の歳月を感慨を込めて振り返った。さらに、公務を離れた後の楽しみについて、ユーモアたっぷりにこう回答された。

<これまでにいつか読みたいと思って求めたまま、手つかずになっていた本を、これからは1冊ずつ時間をかけ読めるのではないかと楽しみにしています。読み出すとつい夢中になるため、これまで出来るだけ遠ざけていた探偵小説も、もう安心して手許(てもと)に置けます。ジーヴズも2、3冊待機しています>

 ジーヴズとは、英国のP・G・ウッドハウスのユーモア小説に登場する天才執事。気はいいが粗忽な若主人を襲う珍妙な難題を切り抜ける活躍が人気を博し、約100年読み継がれてきた佳作だ。美智子さまの愛読書として一躍、日本でも重版続きのブームとなった。

 痛みを抱える人たちを、時に詩や物語を通して励ましてきた美智子さま。自身はどのような作品と出会い、支えられてきたのか。

 英文学者で津田塾大学教授の早川敦子さん(59)は30年来、折にふれて美智子さまに本を届けてきた。

「皇后さまは詩がとてもお好きです。聖心の高校時代に、宿題で暗誦する詩を通学バスの中でおさらいしておられた日々を通して、詩のことばの美しさに対する感性を育まれたのかもしれません。今でも口をついて詩の一節がでてくると。私にもアイルランドの桂冠詩人ヒーニーの詩の美しさを語って下さいました」

 若き日からの詩にまつわるエピソードも数々ある。

 2003年、精神科医で津田塾大教授を務めた神谷美恵子さんの回顧展が同大で開かれたときのこと。神谷さんは美智子さまの良き相談相手であり、遺品の中にはかつて贈られた手刺繍のブローチもあった。来場した美智子さまが「あらっ」と目を留めたのが、レバノン生まれの詩人ハリール・ジブラーンによる『預言者』の原書。美智子さまが贈った詩集だった。

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