そんな徳森さんが「大きなうねり」と感じたのが、昨年12月8日にスタートした、米ホワイトハウスの請願サイト「We the People」でトランプ米大統領に辺野古工事の一時停止を求める電子署名だ。請願を呼び掛けたのは、ハワイ在住で沖縄にルーツを持つロブ・カジワラさん(32)。SNSなどを通じて瞬く間に広がり、米政府の正式な回答が得られる20万筆の署名を集めた。英ロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイさんや、国内の有名タレント、文化人らも続々反応した。署名最終日の1月7日。カジワラさんはホワイトハウス前で開いた集会でこう訴えた。

「沖縄(の声)を無視することは米国が守り続けたすべてを無視することになる」

 ネット世代が担う新たな社会運動は、政治参加の垣根を低くするアイデアによって着実な広がりを見せている。ただ、普天間・辺野古の問題が沖縄県外で注目を集めるのは、土砂投入や選挙といった政治的な動きが活発化したときに限られる面も否定できない。

 昨年の師走。東京・上野の雑踏の中、沖縄の母親たちがマイクを握った。

「皆さんのお子さんは安心して学校に通えていますか? 私たちは安心、安全に学校へ行かせたい、ただそれだけの思いでここに立っています」

 ほとんどの人たちが、ちらりと目をやっただけで足早に通り過ぎていく。

「あの人にもこの人にも聞いてもらいたい、と必死で目線を送りました」

 そう振り返るのは、「チーム緑ケ丘1207」会長の宮城智子さん(49)だ。

 2017年12月7日、普天間飛行場から約300メートル離れた緑ケ丘保育園で米軍ヘリの部品が屋根に落下した。母親たちは昨年2月、園上空の米軍機飛行禁止などを求める12万筆余の署名を国に提出。署名の大半は本土から届いたものだった。しかし、何も変わらないまま1年が過ぎた。「子どもの命にかかわる事故がなかったことにされてしまう」。そんな危機感を抱く保護者らが、13万筆余に膨らんだ署名を持参して再び上京したのだ。

●訴えても訴えても、国が動いてくれないのはなぜ?

 路上でマイクを握るのは初めてだった宮城さんは「バッシングに遭うかもしれない」と恐る恐る街頭に立った。

 米軍は落下物をヘリの部品と認める一方、飛行中の機体から落下した可能性は低いと説明。園には「自作自演」と誹謗(ひぼう)中傷が相次いだ。ネットでは、基地に異議を唱えるのは「過激な活動家」とレッテルを貼られることもある。だが、東京では涙ぐんで聴いてくれる人もいた。「東京の人たちも、ちゃんと話せばわかってくれる」。宮城さんはそう確信するのと同時に壁も感じた。

次のページ