「提言書の作成前、米国の政府関係者らと意見交換した際、『海兵隊の運用を細かく分析すれば沖縄県内に代替施設が必要だとわかる』と言われました。細かく分析し、新基地建設は不要との提言書を持参すると、今度は『もっと大きく全体を見なければ』と言い返されました」

 結局は「沖縄の声を聞く姿勢があるかどうか」だと悟ったという猿田代表はこう強調する。

「政府にその姿勢さえあれば、辺野古以外の選択肢はいくらでもあります」

「辺野古」に反対しているのは沖縄だけではない。朝日新聞社が昨年12月に実施した全国世論調査で、政府が辺野古沿岸部に土砂の投入を進めることには60%が「反対」し、「賛成」は26%にとどまった。他メディアの調査でも、辺野古の工事続行に否定的な回答が多数を占める。こうした民意はなぜ政治に反映されないのか。専修大学の山田健太教授(言論法)はこう指摘する。

「『辺野古』に否定的な本土の民意の多くは、政府は強引すぎるという政治手法への反対表明にすぎないのでは」

 沖縄の米軍基地面積の7割を占める米海兵隊は1950年代に日本本土から移駐された。普天間飛行場の沖縄県内への移設に固執するのは、軍事的・地理的要因ではなく、日本政府の要請に基づく政治的要因だと米国の元政府高官らが繰り返し発言している。沖縄で根強い「辺野古ノー」の民意は、こうした歴史的経緯や政治的要因を念頭に、「辺野古が唯一」と繰り返す政府に対し「納得のいく説明がない」と考える人々が支えている。一方、本土では「進め方が強引すぎるかも」という感情的なイメージに基づく、「ぼやっとした反対」が主だと山田教授は見る。

 人権や自治、民主主義といった観点で見れば、「辺野古」はさまざまな社会問題と根源的に通じている。

「沖縄で起きている実態の背景や歴史的経緯をきちんと報道することは日本社会の立て直しに直結します」(山田教授)

 民意と政治の乖離(かいり)をどう埋めるか。「辺野古」は分断を乗り越え、いかにして「ポジティブにつながる」かが問われる社会の試金石でもある。(編集部・渡辺豪)

※AERA 2019年1月21日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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