ノンフィクション作家 川内有緒(かわうち・ありお)/東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で第33回新田次郎文学賞を受賞(撮影/今村拓馬)
ノンフィクション作家 川内有緒(かわうち・ありお)/東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で第33回新田次郎文学賞を受賞(撮影/今村拓馬)
「note」で全文無料公開された『空をゆく巨人』(撮影/今村拓馬)
「note」で全文無料公開された『空をゆく巨人』(撮影/今村拓馬)

 第16回開高健ノンフィクション賞受賞作『空をゆく巨人』が、発刊に先立ちウェブサービス「note」で全文無料公開された。著者・川内有緒さんの決断の背景とは──。

【「note」で全文無料公開された『空をゆく巨人』】

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「note」での全文無料公開は出版の1カ月前に決めました。編集やPRにかかわる「出版チーム」から提案を受け、私は「いいですね、やりましょう」と即答しました。『空をゆく巨人』(集英社、11月26日刊行)をできるだけ多くの人に読んでもらいたい、と話し合いを重ねてきた私とチームの思いが共鳴した瞬間だったように思います。

 きっかけをくれたのは、スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さんです。帯の執筆をお願いしたところ、なんと300字超の推薦文をいただきました。20字程度で依頼していた担当編集者は絶句し、当初は困惑されたようです(笑)。

 でも、この推薦文には、鈴木さんのあふれる思いがこもっていました。

 開高健賞の受賞直後に食事した際、鈴木さんからこんなアドバイスをいただきました。

「今は1人称で発信する時代だよ。本を手に取ってもらうには、自分で発信しないとダメなんじゃない?」

 すごく納得がいきました。

 1人称で発信する熱量の高いメッセージを地でいく鈴木さんの帯の推薦文が届き、「これだ!」と。ウェブ読者に熱い思いを込めた感想をSNSなどで拡散してもらえれば、本を1冊買っていただくのに劣らず「本を売る戦略」として有効だと考えたのです。

 今回で5作目の刊行になりますが、私には「受賞すればすぐに本が売れると思ってはいけない」という戒めがあります。別の受賞作が初版止まりだった経験もあり、本を読んでもらう難しさが身にしみています。

 私はもともと、本を売るのに熱心な著者ではありませんでした。書きたいテーマで書ければよかった。でも、買ってもらわなければ、本を書き続けられなくなるかもしれないという危機感が募りました。本は自分の子どもみたいなもの。売れなかった子はすごく不憫(ふびん)で、「母として私ができることは何でもやろう」みたいな気持ちがあります。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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