技能実習生は入国前、母国の送り出し機関で日本語や日本の生活に関する勉強をする。最大の送り出し国であるベトナムの場合、短くとも3~6カ月程度は教育施設で共同生活を過ごしてから、日本にやってくる。ベトナムの送り出し機関幹部はこう話す。

「途中休憩はありますが、授業は朝の6時から夜の10時まで。全寮制の集団生活で、日本語はもちろん、ゴミの分別方法やあいさつの仕方などを学びます」

 筆者の手元に、ベトナムのある教育施設が作成した日本の生活を学ぶ教科書がある。

「近くの沼などで魚やカエルなどを捕まえて食べない」「他人の家の敷地内になっている果物などを勝手に取ってはいけない」などと、両国の文化の違いなども学ぶのだ。

 一方、新制度では、日本で働きたい人が技能と日本語力の試験に合格すれば、企業と直接雇用契約を結ぶことができる。法務省の入国管理局の担当者は、

「技能実習制度と似たイメージを持つかもしれませんが、まったく違います。必ずしも送り出し機関を通して採用することは想定していません」

 送り出し機関で十分な教育を受けていない外国人労働者が日本にやってきたら──。前出の監理団体の男性幹部は懸念する。

「新技能実習制度が始まってまだ1年。その成果も見ず、なぜまた監督機能のゆるい受け入れを認めるのか。そもそも語学力と技能で選抜するという発想では、日本の生活ですぐにトラブルを起こすだろう」

 海外からの留学生を受け入れてきた東京都内の日本語学校幹部も、語学力と技能で試験する新制度に不安を見せる。苦い経験があるからだ。

「ベトナム人留学生を初めて迎えたとき、半年で彼らの住むアパートのエアコンが止まりました。中にゴキブリが詰まっていたんです。バイト先の中華料理屋から油のついた靴のまま家にあがり、ゴミもきちんと外に捨てなかった。アパートがたちまち『ゴキブリハウス』になったんです」

 今では学生寮は学校で管理するようになり、ゴミの分別方法なども指導しているという。この幹部は言う。

「迎えるのはモノではなく、ヒト。それも文化背景が全く違う外国人だ。技能実習制度では海外の研修施設や日本語学校が『実習生を日本人化する場所』として機能しているが、特定技能にはそれがない」

(編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年12月17日号より抜粋