「ファンの中心は小学校高学年から高校生だった」と語るのは、元「ミュージック・ライフ」編集長の東郷かおる子さん(70)。クイーンと日本を結び、ブームの旗振り役を担った、ファンにとっては「恩人」だ。「ミーハーは素敵な合言葉」の名言は、少女たちを励ました。

「なんといっても曲がよかった。それに全員がインテリでやさしい。少女漫画から抜け出してきた美青年のようで、女の子に受ける要素がそろっていた。とくに私がピンときたのは淫靡(いんび)さ。彼らに自覚はなかったけれど、日本の少女たちが大人になる過程で通過しなければならないセクシュアリティーへの扉を開け、軟着陸させる役目を担ってくれたんですよ」と東郷さん。

 なかでもフレディにはこの世のものならざる雰囲気とインモラルさも漂う。「その繊細な魅力を嗅ぎ分けられる人とまったく気づかない人がいる」とも。

アイドル扱いして片づけた男性は多かったけど、そうじゃないの。クイーンの存在と曲には、性を超越した普遍的な人間の本質に迫る魅力があったのよ。映画監督のビスコンティみたいな感覚を分かる人なら理解できるんだけど」(東郷さん)

 80年ごろからフレディはマッチョなスタイルに変身した。「変わったおじさん」に見えても無理はない。それでもファンには、彼のナイーブな魅力は変わらずに伝わっていた。どんなときもフレディはチャーミングで愛すべき存在だったのだ。

 しかし、ファンも少女のままではいられない。今回、上映館や11月のフレディ追悼イベントなどで取材した多くの人が、成長するにつれてクイーンから離れていた。洋楽ロックの幅が広がったこともあるが、それよりも結婚や育児で自分の人生が忙しくなっていたのだ。

(ライター・角田奈穂子(フィイルモアイースト))

※AERA 2018年12月17日号より抜粋