近年の米国の選挙は、民主党なら労働組合加入者や人種マイノリティー、共和党なら宗教保守派や銃規制反対派などを、ソーシャルメディアを含む個人データから徹底的に洗い出す「マイクロターゲティング」を各陣営が採用。個人の政治思想に関するデータは、戸別訪問先の選別など選挙運動の最前線で活用されている。つまり、CAの手法は、「目的外使用」で不正にデータを入手した点を除けば、既存の選挙マーケティング産業が駆使しているトレンドと軌を一にしているのだ。

 前嶋教授は強調する。

「CAの問題は氷山の一角にすぎません。同社が破産しても、ソーシャルメディアを利用した選挙マーケティング産業はすでに米国政治の内部に深く組み込まれています」

 日本ではどうなのか。

 選挙運動資金が抑えられているため、米国のような巨大資本が動く「選挙産業」が生まれる素地はなく、ソーシャルメディアなどから得た有権者の個人データが市場で売買される状況にはない。一方で、SNS広告は国内の選挙でも普及しつつある。

 年代や性別を細かく設定できるFBの有料広告や、選挙区限定で配信できる「選挙ドットコム」の有料広告は選挙関係者の間で注目されている。こうした状況を踏まえ、「ソーシャルメディアの言説は偏ったもの、という前提で接する必要がある」とアドバイスするのは、「ネット選挙コンサルティング」を掲げる選挙プランナーの松田馨さん(38)だ。

 ネット検索サイトなどが提供する「アルゴリズム」は、ユーザーの嗜好に合う情報のみを流し、見たくない情報を遮断する「フィルター機能」を有する。こうした機能を持つネットやSNSが有料広告と混在する形で選挙戦に本格投入されれば、日本でも有権者の判断に影響を及ぼしかねない。松田さんは言う。

「広告や情報を発信する側は候補者に投票させる意図を持って流しており、あなた(利用者)のために情報を提供しているわけではありません。自分が受け取る広告や情報には常に疑いの目を向け、丸のみしないよう、さまざまな情報を比較する習慣を身につけることで自衛するしかありません」

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