「欧米でもアジアでも民主主義国のメディアのファクトチェックは、選挙中に最も盛んに行われています」

 背景にはネットやSNSが及ぼす選挙への弊害がある。英国の選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカ社(CA)による米フェイスブック(FB)の個人情報流用が代表例だ。

 英ケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガン教授と連携して性格診断アプリを開発したCAは、「学術目的」として最大8700万人分の個人データを入手。2016年11月の米大統領選挙でトランプ陣営に立ち、アプリから得た性格に関する情報とFBから得られる個人情報を組み合わせ、有権者それぞれの嗜好や政治的方向性にマッチする形で、トランプ氏の政策を褒めたたえるものから、対立候補のクリントン氏の人格攻撃などさまざまな政治広告を発信。この選挙戦術がトランプ勝利の原動力になったとされる。

 FBは全世界で22億3千万人(今年6月末時点)の利用者を抱える。米調査会社ピュー・リサーチ・センターによると、米国人の45%がFBでニュースを見ており、FBは広告も含め世論や消費の動向を決める上で大きな社会的影響力を持つ。

 上智大学の前嶋和弘教授(現代米国政治)は、選挙マーケティング産業が極度に肥大化している米国の状況に警鐘を鳴らす。

「SNSは人々が自由につながっていく手段ではなく、選挙陣営が動員を促進するため情報を拡散する道具に成り下がっています。個人データを基に分析された広告やダイレクトメールによって世論操作が可能になれば、民主主義国家の根本を揺るがす脅威です」

 前嶋教授によると、米国でSNSなどから得られる個人データを使って有権者の分析が進んだのは00年代半ば以降。節目は12年の米大統領選だ。現職のオバマ陣営は、FBやツイッターなどのソーシャルメディアを自動的に分析する仕組みを開発、有権者情報をデータ化した。16年の米大統領選で民主党のクリントン候補も活用した。

次のページ