「彼は家で銃を眺めたり、磨いたり、家にいるシーンが長い。それなのに僕がこの部屋の動線や、窓からどんな景色が見えるのか分かってなかったら、見てる人にバレてしまうと思った。だから、台本の余白を埋めるためにも泊まったんですが……」

 撮影中も寝泊まりしたため、朝、監督やスタッフが部屋に「お邪魔しま~す」とやってくる。

「するとね、なかには足が臭う方もいるわけですよ。もう、最後の方は、その足で部屋やベッドに乗られたくない! それ誰が洗うの!?という感情になりました(笑)。だから、ちゃんとトオルになれたと思う」

 ところが、演じ続けるうちに思いもよらないことが起こった。客観の視点が消え、自分の中にトオルの主観しかなくなったという。

「本来なら、自分とトオルの違いが分からないといけない。でも自分の真心がどこにあるのかわからなくなったんです。トオルの主観で進む話ではあるけど、演じているうちにそこまで行きつくのが、中村ワールドの怖さだなと思いました」

 デビュー作以来となる、村上淳との親子共演も見ものだ。これまた、ものすごいシーンをこの2人が演じるのだ。

「脚本にもない演出を親父が言い出して……言えないけど(笑)。1日だけでしたけど、細かい間やタイミングを、先輩として伝えてくれた感じがします」

 ひとつ気づいたことがある。

「デビュー作は玄人対素人だった。でも、親父からしたら今回、『初めまして、俳優・村上虹郎!』なんです。親父は優しいし、デビュー作だってお前は俳優だった、と言ってくれると思うけど。なんか、やっときたなと」

 最後に目標とする俳優を尋ねてみた。

「海外でも活躍する永瀬正敏さんや浅野忠信さん、オダギリジョーさん。『私立探偵 濱マイク』(映画は1993年から96年までに3本が製作、テレビドラマ版は2002年7月から9月まで放映された)世代の先輩たちが作ってくれた道を辿りたいですし、できるなら変えてもいきたい。最近お会いする機会があって。会う前はただすげえな、と思ってた。でも今は俺も頑張りたい、頑張れるんじゃないかな、と思うようになりました……な~んつってね!(照れ笑い)」

(ライター・大道絵里子)

※AERA 2018年11月19日号