「だから、一度はカナダに帰った。でも、まったく勉強に身が入らなくなって……。結局、惚れたんですよね、この世界に。あの本気度はなんだったんだろうって。やっぱり河瀬直美作品はただの刺激じゃないんですよ。それですぐ日本に帰ってきました」

 あれから4年。オファーが途切れたことはない。

「恵まれていると思います。親父がよく言うんです、人には求められる順番があると。たまたま僕の場合は、いろんなもののバランスの中で早くに需要があった。それはありがたいです。その需要には150%応えないと。100%じゃダメだと思っています」

 常に150%の気持ちで挑むうちに、卓越した能力を持つ人たちとの仕事が増えた。演じる仕事をしていて今、一番幸せを感じるのが、こういう瞬間だ。

「自分にはないカルチャーを持ってる、一流と言われる人と出会ってお芝居をしているとき、『お手合わせさせていただきます!』という気持ちになるんです。あれはすごく楽しい時間ですね」

 素晴らしい先輩たちと「お手合わせ」をすると「答え合わせ」もできる。なかでも映画「武曲 MUKOKU」など、多くの作品で共演した柄本明(70)の影響は大きい。

「柄本さんはとにかくすごい。そのすごさを僕が全部言語化できるはずもないけど……。たとえば、台本をもらうとト書きが書いてある。俳優はそのト書き通りにやるのが仕事なんですけど、ト書き通りにやらないのが仕事でもある。言われたことだけやって何が俳優の仕事なんだ、と。まぁ、僕はそう思ってやっていると、柄本さんも『僕はト書き通りにやらないよ』と言ってくれて……。それは次元が高くないと成立しない会話だったと思う。生意気だけど、そこに食らいついていけたのが嬉しかった」

 さて、最新の主演作「銃」は中村文則のデビュー作が原作だ。モノクロの映像を多用した挑戦的な作品で、内容もなかなかにハード。村上が演じるのは、銃を拾ってしまうことによって、心の奥底に抱えていた激しい衝動を抑えきれなくなり、後戻りのできない状況へと突き進んでしまう大学生のトオルだ。

 役作りのために、撮影に入る2、3日前からトオルの部屋に泊まり込んだ。

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