アルツハイマー型認知症を発症するまで(AERA 2018年11月12日号より)
アルツハイマー型認知症を発症するまで(AERA 2018年11月12日号より)
アルツハイマー型認知症のリスクを軽減する因子(AERA 2018年11月12日号より)
アルツハイマー型認知症のリスクを軽減する因子(AERA 2018年11月12日号より)

 高血圧や高血糖が脳卒中や心筋梗塞の原因となることは知られている。さらに認知症とも深い関連があると聞けば、生活習慣病予防の大切さが身に染みる。

【図表で見る】アルツハイマー型認知症のリスクを軽減する因子

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 厚生労働省の報告によると、日本人の認知症患者の7割弱は「アルツハイマー型認知症」に罹患している。アルツハイマー型認知症は進行性の病気で、診断までに25年間かかると海外の研究で報告された(※1)。脳の機能が正常な時期から、実は脳内ではひそやかに病態が進行している(図参照)。その経過を簡単に説明しよう。

 通常、誰でも脳内には特殊なたんぱく質(アミロイドベータ)などが作られ、日々、代謝によって排除される。だが、アルツハイマー型認知症が進行する人はアミロイドベータが沈着していく。これは1900年代初頭にドイツの精神科医、アルツハイマー博士が脳組織を顕微鏡で観察した結果、明らかになった。

 約10年間、アミロイドベータが蓄積し続けると、脳の血流が悪くなり、PET検査の画像で代謝の低下が見られる。周囲が「最近、ちょっと、おかしいな」と感じるようになり、特に体験に伴う記憶(エピソード記憶)があやしくなる。この時期はまだ「軽度認知障害(MCI、Mild Cognitive Impairment)」と呼ばれる。

 さらに進行すると、CTやMRI等の画像で脳の側頭葉にある海馬の領域の萎縮が認められるようになる。「認知症スクリーニング検査」(MMSE、※2)の点数も低くなる。このあたりで「認知症」と診断され始める。

 認知症の病態まで進んでしまった場合、現代の医学では治癒が望めない。

 だが、近年、MCIの時期に異変に気づくことで、進行を遅らせることができる可能性があるとわかってきた。

 有名な医学誌ランセットに掲載された論文(※3)では、アルツハイマー型認知症のリスク因子として、中年期(40~64歳)の高血圧・中年期の肥満・糖尿病・喫煙・うつ症状・頭脳活動不足・運動不足の七つが指摘された。

 この中でも特に、高血圧と糖尿病に脂質異常症(以前は高脂血症と呼ばれていた)を加えた「生活習慣病と認知症との関連」がいま注目されている。

 これまでも、生活習慣病については、脳血管性認知症との関連はわかっていた。脳血管性認知症では小規模な脳梗塞や脳出血が起こるたびに脳の神経細胞が失われていく。

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