偶然にもタカシの境遇は佐野さん自身と重なる。両親が早くに離婚。母一人子一人で育った。

佐野:母は若くして僕を産んだので、たぶん羊さんと同世代です。タカシにとってのサーフィンが、僕にとってのダンスだったりもする。

松永:たまたま家庭環境が似てたけど玲於は「思春期の男子の母親への接し方」をうまくよく表現してくれた。母親なんていて当たり前だと思っていて、受け答えも雑だったり。

佐野:演じながら思ったんです。「ケンカしても、やっぱり胸のこのへんには母親に対する愛が常にあるんだな」と。映画を観て自分も親のありがたみを再確認しました。

 村上春樹の原作をリスペクトしつつ、それに引きずられない、を目指したという。

松永:映画を自分たちのものにするためには、その後ろにあるものを意識してもしょうがないですから。

佐野:僕はさすがに出演が決まって原作を読みましたけど、共演した虹郎(注・村上虹郎さん)は「原作? 読んでない」だって。

松永:それでいいんだよ(笑)。ただ、原作の舞台であるカウアイ島のハナレイ・ベイでのロケにはこだわりました。オアフ島で撮影したほうが予算的にもラクだったんですけど、行ってみるとやっぱり景色も空気も全然違う。

佐野:本当に感動しました。山見て泣きそうになるくらい。日本じゃ考えられない、ものすごいパワーをもらった。

松永:最高の場所だったよね。

佐野:ハナレイ・ベイにいると、欲が何もなくなるんです。街ひとつしかないけれど、それさえあれば、あとは自然のなかで生きていける。「ああ、オレって普段、無駄なものいっぱいくっつけて生きているんだな」って。また絶対に行きたいです。

(構成/ライター・中村千晶)

AERA 2018年10月22日号より抜粋