梅原真(うめばら・まこと)/デザイナー。武蔵野美術大学客員教授。高知県生まれ。放送局の美術スタッフとして勤務後、1980年からフリーに。高知に拠点を置き「1次産業×デザイン=風景」という方程式で活動(撮影/写真部・小原雄輝)
梅原真(うめばら・まこと)/デザイナー。武蔵野美術大学客員教授。高知県生まれ。放送局の美術スタッフとして勤務後、1980年からフリーに。高知に拠点を置き「1次産業×デザイン=風景」という方程式で活動(撮影/写真部・小原雄輝)

『おいしいデ』は、「おいしいデザイン」とその秘訣をデザイナー自ら、絶妙な語り口で書き下ろし、カラー写真とともに一挙公開した一冊だ。今回は著者の梅原真さんに、同著に込めた思いを聞く。

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 放置されて草ボウボウだった栗山を「デザインアタマ」でスイッチを入れ直し、ケミカルフリーのタカラの山に変えた。10年以上も売り上げが伸びずにいたアイスの名前とパッケージを任され、年商数億円の「人気者」に変身させた。「絶体絶命」の状態から、梅原真さんのデザインという「魔法」の力で再生した第1次産業従事者は数知れず。『おいしいデ』では、その魔法の「仕組み」と再生のドラマとを紹介する。

 例えば、破産する予定だった香川県観音寺市の海産物業者「やまくに」。梅原さんが工場を訪ねると、老夫婦がいりこを一つ一つ手に取り、えらとはらわたを取り除いていた。口に含むと、おいしい。再生への「逆転のスイッチ」がパチリと入り、誠実な商品のたたずまいをパッケージにデザイン。みるみる売り上げが伸び、業績が回復した。

 あるいは、「ぶた」。宮崎県の養豚場「宮崎第一ファーム」は、貿易自由化の波や口蹄疫(こうていえき)の影響など、何度も危機に直面。その都度、頑固オヤジと3人の息子たちで切り抜けたが、本格的な再生のために2011年、「梅原デザイン事務所」の扉をたたいた。翌年、梅原さんは養豚場を訪問。安心でおいしい豚を育てる誠実さをロゴにデザインした。そしてこのロゴを付けた途端、ソーセージやハムなど商品の「顔つき」が一変。4年間で売り上げは倍増した。

「魔法」の源泉には常に「おいしさってなんやねん」という問いがある。本著にも「食べ物のデザインを考える時に、カラダから湧き出る感覚で、そのおいしさを掴(つか)んでいる」。この「掴む」感覚を確信したのが、30年前に高知県内53市町村(当時)を回り、250食の郷土料理を紹介したレシピ本『土佐の味 ふるさとの台所』の仕事だった。地元の食材が丁寧に調理される過程は、「おいしい風景」そのものだった。

 全国から仕事の依頼が届くが、絶体絶命状況にある1次産業の仕事を優先的に引き受ける。「1次産業に元気になってもらわんと、ニッポンの風景は守れません」

 現在、68歳。50歳の時と60歳の時、「今度こそやめよう」と思いつつ、やめずに今に至る。「社会に新しい価値をうみだしていくこのシゴトは、やっぱりおもろい。それに『何ぜよ、今のこの社会は』と思うんや」。ちゃぶ台が真ん中にないニッポンを、南国土佐から憂えている。ゆえにヒラメキが続く限り、デザインを通じて問いかけるのだ。「おまんら、それで本当にええがかえ?」

(朝日新聞記者・浜田奈美)

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