8隻あれば可動は6隻。弾道ミサイル警戒に常に2隻を配置すれば日本列島全域を守れるから、4隻で2交代にし、他の2隻はイージス艦の本来の任務である艦隊防空にあてられる──というのが本来の海上幕僚監部、防衛省の計算だ。ところが近く8隻になることを言わず「現在の4隻では苦しいから陸上イージスが必要」と主張するのは詐欺的だ。これを自治体への回答書や白書に書くのは公文書を尊重しない風潮の表れだ。

 弾道ミサイル防衛の最大の弱点は弾道ミサイル迎撃用のミサイルの弾数が極度に少ないことだ。イージス艦は各種ミサイル90発(新型艦は96発)が入る垂直発射機を備え、対潜水艦ミサイルと対空ミサイルを16発ずつ入れても、50発以上のミサイル迎撃ミサイルを積める。だがイージス艦は1隻に8発しかそれを搭載していない。旧型のミサイルでも1発16億円したから、多くは買えなかったのだ。相手が核付きと通常弾頭付きのミサイルをまぜて、8発以上発射すれば対処できず、イージス艦は8発を発射すれば「任務完了、帰港します」とならざるをえない。

 地点防衛用の「PAC3」も同様だ。34輌の自走発射機は1輌に16発のミサイルを入れられるのに4発しか積んでいない。「PAC3」は不発や故障を考え、1目標に2発ずつ発射するから1輌で2目標にしか対処できない。実はミサイル防衛は形ばかり、気安めにすぎないのだ。ミサイル防衛に関わった自衛隊幹部たちに、私が「陸上イージスよりは、弾数を増やす方が合理的では」と言うとほぼ例外なく「おっしゃる通り」との反応が返る。

 防衛省は白書などで陸上イージスの導入でミサイル防衛能力が「抜本的に向上」と言う。だが他のページでは「北朝鮮はノドン・ミサイルを数百発配備している」と脅威を強調している。陸上イージスの弾が仮に将来定数の24発になっても、相手の数百発に対して防衛能力が「抜本的に向上」するはずがない。典型的な誇大広告だ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2018年10月1日号より抜粋