東京・お茶の水のビルの一室。教室の壁際の本棚には本がびっしり詰まっている。国語専門塾の鶏鳴学園。授業は1分間スピーチから始まる。題材を決め話の組み立てを考えプリントに書き込んでいく。作業時間は5分。タイマーがセットされ、生徒たちはてきぱきと手を動かす。

 ヘーゲル哲学の研究者でもある塾長の中井浩一さん(64)は、この塾はある種の哲学塾だと思っている。ゼミ形式の授業は生徒同士の発表や質問で進んでいき、講師は交通整理しながら生徒の「集団的思考」を促す。

「自立を課題としている彼らにとって一番心が動くのは、プロや大人たちの言葉じゃない。同じ年代の仲間の言葉です。みんなが作文を書いて互いの悩みを読みあう。それが彼らの問題意識をひき出し、自立心をよびもどす。だからそれを最大限に生かすことが効果的なんです」

 議論ができる、文章を書ける、人前でプレゼンができる。将来社会に出てから必要となるそういう能力を、大学受験以上に強く意識している親が同塾の扉をたたくという。

「大学に入ってからでは遅いと、特に父親が危機感を持っています」

 授業内容は高度だが、説明会に参加し塾の方針に同意できれば作文を提出することで入塾できる。大学入学後や社会に出た後に生きる力を養うため、短期間での入試対策はやらない。しかし正しい方法とそれに必要な能力を身につけるための復習を辛抱強く反復することで、確実に国語力はついていくという。

「最も基本的で地味なことをするように言っています。苦しいけれどやり続けられるのは、自立し、問題意識を持って生きたいという信念があるからです」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2018年9月24日号より抜粋