昭恵氏の好感度は森友問題発覚以前、夫を上回っていた。昭恵氏支持層は、主に働く女性と若い世代。その明るいキャラクターと行動力に惹かれる人が多かったという(4月20日、東京・羽田空港で撮影) (c)朝日新聞社
昭恵氏の好感度は森友問題発覚以前、夫を上回っていた。昭恵氏支持層は、主に働く女性と若い世代。その明るいキャラクターと行動力に惹かれる人が多かったという(4月20日、東京・羽田空港で撮影) (c)朝日新聞社
永田町という男社会で昭恵氏は必死に居場所を探した。子どもがいないことを周囲に揶揄され傷ついたこともある。夫はその時、どんな言葉をかけたのだろうか(8月11日、自民党山口県連が主催する会で撮影) (c)朝日新聞社
永田町という男社会で昭恵氏は必死に居場所を探した。子どもがいないことを周囲に揶揄され傷ついたこともある。夫はその時、どんな言葉をかけたのだろうか(8月11日、自民党山口県連が主催する会で撮影) (c)朝日新聞社

 安倍昭恵氏は第2次安倍政権の初期、「アッキー」と呼ばれ人気抜群だった。それが森友学園問題で一変する。非難が集中し、政権は距離を置いた。昭恵氏はどんな役割を担っていたのか。そして政権に何をもたらしたのか。

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 スーツをまとった全身黒ずくめの男性の群れの中で、空色のワンピース姿は明らかに異彩を放っていた。自民党総裁選が告示された9月7日朝、安倍晋三首相夫人・昭恵氏の姿は地元、山口県下関市にあった。集まった後援会、県会議員、市会議員を前に挨拶に立った彼女は、自分の行動と発言が発端で政権が窮地に立たされた「森友問題」に一切触れることはなかった。

「(夫は)この6年間、横で見ておりましても、本当に自分のすべてをかけて国のために頑張ってきたと思います。これまで培った経験や人脈を生かして、さらにこの国の発展のために、そして世界や地域のために全力で頑張っていくと思います」

 必勝祈願の神事では深々と頭をさげ、集まった支援者には笑顔で握手に応じた。しかし、かつて彼女が「アッキー」の愛称で呼ばれ、頻繁にマスコミに登場していた時代の輝きは影を潜めた。何しろ森友問題発覚以降、一貫してマスコミの取材を拒否し続けている。

 昭恵氏とは、どのような人物なのか。安倍政権にとっては、どのような存在なのか。ある自民党の地方幹部は昭恵氏の現在の心中をこう察する。

「リベラルの陣営からはなぜ彼女だけが『説明責任を果たさないのか』とただされ、身内であるはずの保守陣営からは、『総理の足を引っ張る自由奔放な嫁』とたたかれる。夫に帯同するのではなく、名代として一人で地方の後援会に出向く彼女の心中は、政治家の妻とはいえ穏やかではないと思います」

 2017年2月17日の衆議院予算委員会のことだ。森友学園の籠池泰典理事長(当時)が、近畿財務局との交渉時、昭恵氏の名前を引き合いに出したとする文書の存在が発覚。批判の矢面に立った安倍首相は、こう答えた。

「私や妻が(この価格交渉に)関係していたということになれば、まさにこれはもう私は、総理大臣も国会議員もやめるということであります」

 安倍政権が昭恵氏に対する態度を一変させた瞬間だった。

 この発言以前、安倍政権は「家庭内野党」を標榜し、原発再稼働や防潮堤建設に反対してきた昭恵氏の行動を容認していた。安倍首相は就任以来、自民党の党是である「憲法改正」を前面に押し出し、日本会議など右派勢力の支持拡大を図った。一方、昭恵氏は「反安倍」を謳う左派勢力を取り込む役割を果たした面があると、昭恵氏に直接会って取材した経験のあるノンフィクション作家・石井妙子氏は語る。

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