「本との出会い」「本のある暮らし」がテーマのブックホテル「箱根本箱」は8月1日にオープンしたばかり(撮影/植田真紗美)
「本との出会い」「本のある暮らし」がテーマのブックホテル「箱根本箱」は8月1日にオープンしたばかり(撮影/植田真紗美)

 目の前の正面玄関には大きな木製の自動ドア。その閉ざされたドアからは中の様子をうかがうことはできないが、ひとたびドアがスーッと左右に開けば、視界の先には大文字焼で知られる箱根外輪山と壮大な青空が広がる。その傍らにあるのは、ここだけで7千冊は収納されているという巨大な本棚だ。まるで突如暗幕が開き、映画のワンシーンのような光景が現れたよう。実に心憎い演出だ。

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 そう、ここは本を読むために訪れる場所。8月1日にオープンしたブックホテル「箱根本箱」(神奈川県箱根町強羅)である。ブックホテルという一面のほか、地産地消をモットーに手の込んだ料理が食べられるオーベルジュでもあり、二つの源泉を楽しめる掛け流しの温泉という顔も持つ。

 箱根本箱をプロデュースしたのは、株式会社「自遊人」の代表取締役でクリエーティブディレクターの岩佐十良(とおる)さんだ。

「昔は駅前に必ず本屋があり、待ち合わせだけでなく、電車の時間を待つのも、家に帰る前にふらっと立ち寄るのも本屋でした。そこで普段なら興味を持たないような本をパラパラと見て『おっ、これって意外と面白いじゃないか』と買うことも多かった。たまたま出会った本から知的好奇心が刺激される空間が、身近にあったんです」

 と振り返り、こう続けた。

「今、本が売れない時代と言われていますが、それは本との接点を失ったからではないでしょうか。こうした身近な書店がどんどん減る一方で、フロア面積が広い大規模店は増えましたが、本を買う目的のある人が本屋に行ってお目当ての棚に直行する、そんな買い方が多いようです。もっとフランクな『本と人との接点』をつくりたかったんです」

 それゆえに岩佐さんは、館内の本はすべて購入可能なことにこだわった。

 書店の機能を果たす一方で、書店よりも自由度は高い。たとえ購入前であっても気に入った本を、自分の部屋やレストランやラウンジのソファで、「ぬらさない」という条件はあるもののお風呂の中にだって本を持ち込んで読書に没頭することができるのだ。

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三島恵美子

三島恵美子

ニュース週刊誌「AERA」編集部で編集や記事執筆、書評欄などを担当。書籍の編集も多数経験。

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