「生まれてくる子どもたち、これから成長していく子どもたちを祝福するような、希望がある作品を作りたかった」

 と、米林監督。

「私たちの生活で、恐怖や危険が身近なものになっています。それでも生きていかなくてはいけないし、そうであるならば縮こまるのではなく、しっかり地に足をつけていたい。子どもたちに対して<それでも世界は美しい>と大人は語るべきだと思います」

◎「ちいさな英雄─カニとタマゴと透明人間─」
監督:米林宏昌、百瀬義行、山下明彦。声の出演:木村文乃、尾野真千子ほか。8月24日から全国公開。

■もう1本 おすすめDVD「思い出のマーニー」
 宮崎駿が引退したあとのスタジオジブリで作られた、米林監督の劇場用アニメーション。原作はイギリスの児童文学作家、ジョーン・G・ロビンソンの同名の作品。ジブリでは初めて、北海道を舞台に作られた作品だ。

 主人公は札幌で暮らす12歳の少女・杏奈。両親と祖母を失い、里親である頼子に育てられている杏奈は、周囲に心を閉ざして暮らしている。ある日、杏奈は持病の喘息の発作をおこし、夏休みのあいだ田舎で過ごすことになる。そこには「湿っ地屋敷」と呼ばれる古い屋敷があり、杏奈は不思議な少女・マーニーに出会う──。

 マーニーが暮らす屋敷は入り江に面して立っており、杏奈がマーニーに会いに行くたびに、湿地と水の情景が杏奈の感情とシンクロしていく。さまざまな表情を見せる水の描写が、作品に視覚以上の効果を与えているのだ。

 種田陽平がアニメーション作品の美術に初参加したことも話題に。児童文学の王道に真正面から挑んだ傑作だ。

◎「思い出のマーニー」
発売元・販売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
価格:2枚組4700円+税/DVD発売中

(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年8月27日号