「デビュー当時は、25歳でやめようと思ってたんです。このペースで5年も試合すれば、やり切るんだろうなと思ってて。でも24歳の時に転機になる試合があって、自分でも強くなったという実感を覚えていたんですね。『よし、ここから!』と思った時に、子宝に恵まれて」

 出産を経た石岡さんがリングに復帰するまでには、丸2年の期間を要した。しかし、出産前も後も、彼女の頭には現役続行という考えしかなかった。

「休まないといけない、練習できないというのがすごくもどかしくて、そこでやめるという気持ちにはなりませんでしたね。出産後は、復帰のために動いて動いてという感じで」

 とはいえ、出産前後では状況も環境も大きく変化する。何より育児という新しい“仕事”とも、折り合いをつけていかなければならない。

「以前とは全然違いますね。練習も朝・昼・夜と1日3回に分けてやっていましたが、今は朝1時間、夜2時間が精一杯。出産後しばらくは骨盤が開いた影響で、蹴りなどの動きにも違和感がありました」

 夫の青木隆明さんも同じ格闘家で、現在は所属する空手道禅道会長野支部を2人で切り盛りしている。同業のため理解もあり、育児も協力し合うし、祖父母も孫の面倒を見てくれる。

「でも、罪悪感は常にありますね。育児をしている時は練習をしていなくて、練習をしている時は育児をしていない。葛藤ですね」

 復帰から1年半後に「RIZIN」が旗揚げし、女子格闘技が盛り上がってきたことは大いに刺激になった。ずっと「女子格闘技を有名にしたい」と思ってきた石岡さんにとって、自分がやってきたことを大きな舞台で出せるのは願ってもないチャンス。復帰後はその舞台が目標となり、昨年4月には横浜アリーナの大会場で初出場を果たした。

「地元の長野県の人たちや、広島の親、親戚がテレビで見て盛り上がってくれたのがうれしかったですね」

 この7月には「RIZIN」に再出場し、レスリングで名を馳せた山本美憂とも対戦。

「5歳になる息子も、だんだんママのやってることが分かってきました。今は一年一年、自分のやるべきことをやり切って、これまでやってきたことを形にして終わりたいという思いがあります」

(ライター・高崎計三)

AERA 2018年8月13-20日合併号より抜粋