なぜ、これほどまでに早いツイートが可能なのか。そもそも、このアカウントを運営しているのは誰なのか。エヴァンゲリオンシリーズとの関係は? 運営者と思われる人物に取材を申し込むと、意外にもあっさりOKの連絡が来た。

■いったい誰が?

「はじめは、エヴァンゲリオンの世界観を自分で楽しむためにアカウントをつくりました。『警報』を発信するのに、現実の気象警報などをつぶやけばリアルでおもしろいと思ったんです」

 そう笑うのは、都内でITセキュリティ会社ゲヒルンを経営する石森大貴さん(28)。このゲヒルンという会社名もエヴァンゲリオンに登場する用語で、NERVの前身となった組織だが、特務機関NERVのツイッターアカウントは、石森さんが本業の傍ら個人で運営している。アカウントを開設したのは2010年のことだった。特務機関NERVは作中で、敵の襲来を知らせる「警報」を発令する。大のエヴァンゲリオン好きだった石森さんは、これを自分でマネしようと思ったのだという。当初はツイートも手動。10年7月に、得意のプログラミングを生かして自動的にツイートする機能を開発したが、それでも初年度のフォロワー数は300人程度だった。

■「逃げて」という言葉を届けたい

「これほど本格的に運営するつもりはありませんでした」

 石森さんはそう話す。しかし、2011年3月に起きた東日本大震災が「NERV」アカウントを大きく変えた。震災を機にフォロワー数は数万人規模まで大きく伸びたが、それ以上に変わったのは石森さん自身の思いだった。

 宮城県石巻市出身。高校卒業まで暮らした実家は津波で全壊した。家族は無事だったが、親戚や友人を多く亡くした。震災以降、特務機関NERVにそそぐ力は格段に大きくなったという。

「あのとき、“逃げて”という言葉が大切な人に届かなかった。次の災害が起こったときには、誰も亡くしたくない。NERVのツイートは、“逃げて!”という僕の思いです」

 震災直後には、節電を呼びかける「ヤシマ作戦」の拡散も主導した。「ヤシマ作戦」もエヴァンゲリオン作中に登場する言葉だが、節電を呼びかけるキーワードとして自然発生的に登場、石森さんがNERVロゴと組み合わせた画像を作成するなどして爆発的に拡散した。

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気象庁に専用線を敷設