当時の自分と同じ年くらいの児童たちに紙芝居をしながら、その反応に、思うことがある。

「平和資料館などを見た後に話をするので、児童も私の話を理解してくれる。戦争しちゃいけん、原爆はいけん、核兵器はいけんという感想を述べてくれます。ただ、中学生になると後ろの方は居眠りしとる。話をしながら、これは通じんな、興味がないなと思うことがある」

 東京から来る知り合いに「広島では毎日のように原爆の記事やニュースがあるけど、東京では全然ない」などと言われると、やはり心配になる。

「私らのメッセージは届いていないなと思うことがある。広島は広島、長崎は長崎、沖縄は沖縄だけの問題として、見て見ぬふりをされとる気がする」

 今年の8月6日も東京のテレビ各局では、NHKが平和記念式典を中継するなどしたが、民放では平和を考えるような特集や映画などの番組編成はほとんどなく、ニュースで少し広島の様子が流れただけだった。

 被団協では、核廃絶を願い、核兵器禁止条約への参加を全ての国に求める「ヒバクシャ国際署名」活動をしており、毎年、国連に提出している。

「家族に被爆者がいるなどと言って署名してくれる人はいるが、広島ですら、どれだけお願いしても無関心の人もいる。こういうことをやるのは一部の活動家だけだと思っとる人もおる。日本はもう平和だし、原爆、原爆と言うなと思っている人もいるでしょう。何もかも至れり尽くせりの時代だし、毎日の生活も忙しい。原爆を経験していない人に深い関心を持てと言っても、なかなか難しい」

 それでも光はある。

 核兵器廃絶を国内外で呼びかける長崎発の取り組みである「高校生平和大使」の活動は日本各地に広がり、ますます活発化して、世界的にも知られるようになった。広島県立福山工業高校の生徒たちは、広島の原爆投下前後の爆心地周辺の様子をバーチャルリアリティー(VR)技術を使って再現し、疑似体験できるようにした。広島市立基町高校の生徒たちは、被爆者証言を絵にする活動を続け、今年も「原爆の絵」を完成させている。箕牧さんの紙芝居の絵を描いたのも同校の生徒だ。

次のページ
撤去が決まっている「原爆再現人形」