東京拘置所 (c)朝日新聞社
東京拘置所 (c)朝日新聞社
安田好弘弁護士 (c)朝日新聞社
安田好弘弁護士 (c)朝日新聞社

 7月6日に死刑執行されたオウム真理教教祖の麻原彰晃死刑囚(63)=本名・松本智津夫=。同死刑囚の主任弁護人を一審の途中まで務めたのが安田好弘弁護士だ。安田氏が獄中で会った教祖は、法廷で空中浮揚をしてみせる計画を立てたり、2003年日米開戦の予言もしていたという。1審判決を前に、安田弁護士が当時の麻原死刑囚について語った記事をAERA2004年3月1日号から再録する。

【『彼』とは三つの面でかかわりを持ったという安田弁護士】

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「『どうすれば、私の真実を明らかにできますか』と彼が僕に問うのです。僕は考えたすえ、『法廷でみんなが見ている前で、空中浮揚をやってはどうでしょうか』と言ったんです。法廷でやってみせれば、僕たち弁護人も納得するし、検察官、裁判官は腰を抜かして逃げてくと思うよって。それで、彼は、『やってみます』と言いました。95年の暮れのことでした」

「直接その様子を見ることはできませんでしたが、96年4月の初公判に向けて、警視庁の留置場や東京拘置所の中で、『空中浮揚』のための修行を重ねていたようでした」

 オウム真理教(現在はアーレフと改称)の教祖だった松本智津夫(麻原彰晃)被告。95年5月に逮捕されて以来、東京拘置所にいる彼の勾留生活を伝える情報は、ほとんど公になっていない。

 東京地裁の要請で在京の弁護士会が編成した弁護団の主任弁護人である安田好弘弁護士が沈黙を破り、今回、それをあえて語ったのは、この裁判でいかに異常なことが起きたかを知ってほしかったからだという。

●看守に触られ「失敗」

 坂本弁護士一家殺害事件、松本サリン事件も含め、一連のオウム事件の残忍さ、異常さ、被害の大きさ、そして社会全体を不安に陥れた影響の大きさ。「絶対許せない」という国民感情は当然だろう。ただ、それと、憲法で保障された「公正な裁判の手続き」とは別問題。被告人が無実か否かにかかわらず、弁護人が、その「権利」を守るのは当然の責務で、起きたことの真相を追求し、事件を正確に理解するには、被告人と信頼関係を築かなければならない――「悪ふざけ」と誤解されかねない「空中浮揚」を法廷でできないか真剣に持ちかけたのも、安田氏にとっては、その延長線にあったという。

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結局できなかった空中浮揚…