小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
<br />
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
意識して行動を変えないと習慣は変わらない(※写真はイメージ)
意識して行動を変えないと習慣は変わらない(※写真はイメージ)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

*  *  *

 やってしまった。まさかこんなひどい失敗をするなんて。

 仕事仲間の送別会。私はスピーチでこんな話をしました。

「〇〇さんが着任した時、『わ!“オジサン”が来た、ケンカしちゃったらどうしよう』と緊張したんですけど、話してみたらピュアで繊細な方で……」。ご当人は「オジサンはショックだなあ」と笑っています。「いえ、第一印象と全然違ったって話です。愛情表現です!」と返した私。

 帰りのタクシーの中で自分の発言を振り返ってハッとしました。これ、典型的なハラッサーの振る舞いじゃん。オジサンをオバサンに入れ替えて、もしも自分が言われたらと想像したら、絶対許せん。

 私、その手の無神経な人をめちゃくちゃ軽蔑していたのに! しかも「悪気はない、愛情表現だから」って最低の言い逃れまでしてしまった。ひどく落ち込んで、参加者にお詫びのメールを出しました。

 あの時、たくさんの中年男性を前にして、私はオジサンという言葉に「父権主義的で頑固な」というネガティブな意味を込めました。だってほんとじゃん、て内心思いながら。その上、かつて女性社員に人気だったという別の男性には褒めたつもりで“プリンス”と言ったりもしたのです。そう言えば先日、あるイベントでも緊張のあまり下品な話をしてしまいました。必要以上に露悪的になって。

 これまで女性蔑視的な言動には腹を立ててきました。と同時に、それに適応しなくちゃとも思い込んできました。下品な冗談も、仕事の会話ではお馴染みでした。

 だけどそんなのもうやめよう!と思ったんです。だからここでも繰り返しそう書きました。全ての中年男性が悪者じゃないし、プリンスと言われて喜ぶわけでも、下品な話が好きなわけでもないこともわかっているつもりでした。

 結局、私も何も変わってなかったんです。

 刷り込まれた行動パターンは、ふとした時に無意識に出てしまうもの。セクハラは理屈抜きの条件反射であるという視点がないと、根絶はできないと身をもって知りました。

AERA 2018年7月9日号

著者プロフィールを見る
小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

小島慶子の記事一覧はこちら