「AERA」の新連載「いま観るシネマ」、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべきものをセレクト。監督や演者に直接インタビューし、作品の舞台裏を映し出します。
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フロリダの安モーテルに母と暮らす6歳の少女の目で「アメリカのいま」を描いたショーン・ベイカー監督(47)。
「自分の住まいを確保できない人々はアメリカで“隠れホームレス”と言われている。このモーテルは実際にディズニーワールドの近くに存在し、多くの貧困家庭が暮らしている。本来、子どもにとって地上で一番幸せな“夢の国”があるところに、この状況が並列していることが印象的で、物語にしたいと思った」
社会のアウトサイダーに目を向けることが多い。前作「タンジェリン」は街にたむろするトランスジェンダーが主人公。全編をiPhoneで撮影したことも話題になった。
「僕はケン・ローチに憧れるんだ。彼はぶれないビジョンを持ち、社会的な問題に光を当て続けている。でも僕はいっぽうで映画をエンターテインメントだとも思う。だからシリアスな問題にユーモアを交ぜたりして、ふたつのバランスを取ろうとしている」
試みは成功している。定職も定住先もないシングルマザーと子の状況はシビアだが、そのなかでも少女ムーニーは仲間とつば吐き競争をし、笑い転げ、生き生きと日々を楽しんでいる。
「僕自身に子どもはいないけど、自分の子ども時代を思い出して、できるだけリアルに描くようにしたよ。僕は子どもが年齢にそぐわない振る舞いをしたり、子どものボキャブラリーにはない発言をするような映画は苦手なんだ」
母親役のブリア・ヴィネイトはインスタグラムで見つけた新人。二人の息はピッタリでまるで本物の母子のようだ。本作を見て「ルーム」を思い浮かべた、と話すと「なるほど」とうなずいた。
「あの映画に直接インスピレーションを受けたわけじゃない。でもリサーチするなかで、モーテルで暮らす家族に会って思った。親はそれがどんな場所でも、子どもたちが住む世界を“日常”にしなければならないし、そのためにあらゆる努力をするものなのだと。映画に祖母とモーテルで暮らす少女が出てくるけど、あのおばあさんには実在のモデルがいる。彼女は僕に『どんな場所でも自分の“家”になりうるし、しなくてはいけないの』と話してくれたよ」
「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」
5月12日(土)から東京・新宿バルト9ほか全国で公開
(ライター・中村千晶)
※AERA 2018年5月14日号