ある官僚は「記者とメールしていると、上司から確認されるかもしれない」。フリーメールから返信があった(撮影/今村拓馬)
ある官僚は「記者とメールしていると、上司から確認されるかもしれない」。フリーメールから返信があった(撮影/今村拓馬)

 霞が関の官僚にとって、昨年の流行語「忖度」は、死語になりつつあるのかもしれない。第2次安倍政権発足から5年あまり。さまざまな出来事が積み重なって、「絶望」すら見えた。

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 4月10日、参議院議員会館で国家公務員の働き方を考える緊急院内シンポジウムがあった。主催は国家公務員で構成される国公労連。メディアも含め、会場には400人が集まった。平日の昼間にもかかわらず、開始10分前には入場用のパスカードがなくなった。ゲストとして登場した前川喜平・前文部科学事務次官は「公務員いじめも極限にきている」と訴えた。

「佐川(宣寿・前国税庁長官)さんにも、柳瀬(唯夫・元首相秘書官)さんにも、同情を禁じ得ない。すべての公務員は憲法15条に明記された『全体の奉仕者』であるが、『一部の奉仕者』に政治が変えてしまっている。そのなかで死を選ぶ人も出てきてしまった」

 第2次安倍内閣の誕生から5年以上が過ぎた。対抗する有力野党は現れず、政治的緊張も生まれない。森友学園や加計学園の獣医学部新設問題の根底には、長期政権の驕りもあるだろう。

「政治家は国民に選ばれた代表であり、政治家が『やる』と言った以上、役人は逆らえないし、従うのが民主主義」(中央省庁の幹部官僚)

 しかし、安倍一強政治の下で、日本の民主主義は正しく機能しているのか。全体の奉仕者の姿が揺らいでいる。

 菅義偉官房長官に対して厳しい質問を続ける東京新聞の望月衣塑子記者のもとには、官僚からエールが寄せられる。単に「頑張って」といったたぐいの声だけではない。望月さんはこう話す。

「自分では口に出して言えないから、代わりに質問してくれとお願いされることもあります」

 例えば、自民党は昨年の衆院選で、教育無償化などの「人づくり」政策に2兆円規模の予算をつぎ込むと掲げた。

「財源がはっきりしないのに、聞こえがいいからという理由だけで2兆円に。選挙のためのバラマキはやめてくれという思いを財務官僚は持っているが、表立って口には出せない。だから私に情報を提供してくる人もいるんです」(望月さん)

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