また15年9月17日には<24日に『Nature』誌から、私が出した論文を否定する内容の論文が掲載されるので、コメントが欲しい、と新聞社から連絡があった>(131頁)と書き、9月24日には<「Yahoo!」のトップニュースに『Nature』の記事。込み上げてくる感情はマグマのよう>(132頁)と書いているが、その論文の内容や、それへの反論は何もない。

 実は、このとき発表された論文は2本あった。一つは、理研の研究者らがSTAP細胞とされたものはES細胞(胚性幹細胞)だったことを遺伝子解析で証明したもの。もう一つは世界各地の研究者らがSTAP細胞論文で行われた実験を再現しようとしたが、同じ結果が出なかったもの(なお、STAP細胞論文の結果を再現できなかったという論文はこれ以外に3本ある)。

 小保方氏はこうしたことを何ひとつ書いていない。

 筆者は、研究不正問題を解決するヒントが少しでも得られないかと思って、『あの日』や小保方氏のホームページ、瀬戸内氏との対談、そして『日記』を読んできた。しかしその労力は無駄だった。あるのは科学に詳しくない読者を同情させたり誤解させたりする記述ばかりだ。

 結論はこうだ。STAP細胞事件は生命科学と研究倫理にとってきわめて重要で、忘れるべきではない。しかし小保方さんのことは……もう忘れよう。(サイエンスライター・粥川準二)

AERA 2018年4月23日号