さらに17年からはより深い内容理解を問うため、定期的な高校入試レベルの国語のテストを課すように。成果を“見える化”した。テストの結果はぐんぐん伸びたが、それで現場が劇的に変わった、とまではいかない。しかし、正確で素早い読解力が備わり始めてきたことで、季節ごとにメッセージを添えるなど、クレームの際も謝罪の気持ちが伝わる言葉を考える余裕も出てきた。すると、徐々に利用者からの反応も変わってきた。

「メールでの対応だったけれど、まるで電話で対応してもらっているように感じられた」

 そんな感謝のメールが届くように。谷村さんは言う。

「目頭が熱くなるような言葉をもらえることも。オペレーター側もただテンプレで返信するより、利用者と気持ちが通った会話をできたほうがモチベーションが上がります」

『最強のAI活用術』などの著書があるメタデータ社長の野村直之さんは、ディープラーニング(深層学習)により、人間の視覚や聴覚、触覚などかなりの部分が機械化できるようになった、としつつ、AIが先のCS部門のように、相手の気持ちをくんでコミュニケーションができるようになるのは難しいと断言する。

「ある程度の数の対訳文を読み込ませれば精度が高まる翻訳と違い、AIが自然な対話ができるようになるためには、実世界を理解するための膨大な知識を駆使する必要があります。例えば、『あそこにビアガーデンがあるね』という問いに、『給料日前だからやめておこう』という答えが成立するように、会話には無数の正解がある。意識や責任感、自発性を備えたAIがこうした会話をできるようになるのは今世紀中は無理だと思います」

 とは言え、人間同士でも相手を思いやるコミュニケーションは難しいもの。働き方や価値観が多様化し、より高度な“読解力”が求められる現代ではなおさらだ。そんな中、相手の考え方を知り、受け入れる土壌をつくることで、チーム力を高めようという企業もある。

 ポータルサイトなどを運営するエキサイト(東京都港区)では、新人研修の一環として、相手の価値観を受け入れ、自分との違いを理解する「価値観探し研修」を実施している。

「完璧」「計画性」「挑戦」「ポジティブ」──。様々な価値観を示す言葉が書かれた白いカードが、机の上いっぱいに並ぶ。実に100種類以上。新入社員は、この中から、大事にしたい価値観に近いものを5枚選び、エピソードと共に発表する。

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