エキサイトのようなIT企業では、エンジニアや営業、企画など職種も年齢も違う社員が協力してサービスを作り上げている。しかし、事前に仕様書をきっちり固めてから進めたいエンジニア、営業先との商談を一歩でも前に進めたい営業、ユーザーファーストを追求したい企画部門……など、それぞれの目的を追い求めるがゆえに、議論が食い違ってしまうこともしばしば。「価値観探し」は、そんな職種や年代の差を理解したうえで、円滑なコミュニケーションが取れるよう導入された研修なのだ。

 さらに、最近の20代ならではの事情もある。かつては、例えば社内イベントの幹事など、事業には一見直結しない仕事でも「それが会社員」と言われれば、何となく受け入れられていた。しかし、ここ数年、事情が変わってきたようだ。人事部の高橋直美さんはこう明かす。

「個性を重視する教育を受けているからなのか、自分の考え方に自信を持っていて、『なぜやらなくてはならないのか』を理屈で納得しないと動かない人も。『同じ会社のチームだから協力するものだ』という押し付けは、もはや通用しなくなっているのかもしれません」

 実際に研修を受けた社員には、どんな変化があったのか。入社2年目、エンジニアとして働く三浦大幸さんは、大学時代は帰宅部、初めて飲み会に行ったのも大学4年生の時。本人いわく「狭いコミュニティーで生きていた」という。そんな三浦さんにとって、研修は新鮮だった。

「僕は『完璧』や『計画性』を選んだんですが、同期のエンジニアでも『かわいさ』を選ぶ人がいたり……、人によって全然違うんだなって驚きました」

 これがよい「洗礼」になった。仕事が本格化してからは、より多くの人に揉まれたが「そういうものか」と割り切れた。自然と視野も広がった。エンジニア間は、チャットを使った会話が多いというが、今では「文字は感情が伝わりにくいので、過度に印象が悪くならないよう、言葉選びに気をつけている」と気遣うまでに。社内でも「体当たり型エンジニア」と評判だ。

 前出のAIに詳しい野村さん曰く、AIはいわば「KY」。状況や文脈を読み解いたり、交渉したり、チームで合意形成をしたりするのは苦手だ。データの相関関係は見抜けても「なぜそうなったのか」という理由や背景を論理的に説明できない。

 一方、得意なのは、大量の知識を検索すること。

「知識はすぐに陳腐化するので、過去の経験や慣れで仕事をしている人は通用しなくなります。知識労働から脱却し、課題を解決するために使える知識を探し、活用できる『知能労働』への転換が迫られています」

(編集部・市岡ひかり

AERA2018年4月16日号より抜粋