だがハードルは低くはない。というのも、複数の企業の人事担当者によれば、身体障害者や知的障害者で働ける人は少なくなりつつあるからだ。

 いまや企業の社会的責任(CSR)が求められる時代。各社はこれまで法定雇用率達成のため、身体障害者や知的障害者を積極採用してきた。他者とコミュニケーションがとりやすい身体障害者は比較的受け入れやすく、知的障害者も業務を細分化し、それぞれの障害に合った作業に見直せば、無理なく働ける。そのため、身体障害者と知的障害者の確保に走ったという。

 一方で結果的に仕事に就きにくかったのが精神障害者だ。18~64歳の雇用可能な障害者数(厚労省調べ)は、身体障害が約111万人、知的障害が約41万人、精神障害は約203万人と精神障害が最も多い。雇用されている障害者の中で精神障害者は最も少ない。前出の渡邊さんによると、障害者対象の就職イベントの参加者のうち、8割以上が精神障害者。それだけ就職が難しいのである。

 今後も法定雇用率は引き上げられる情勢で、企業側は精神障害者の雇用にも積極的に取り組まなければならなくなる。これまで以上に難度の高い取り組みになるのは間違いない。だが、企業採用にも詳しい渡邊さんはこう打ち明ける。

「何万人も働いている大手企業で、新卒採用には人手をかけているのに、障害者雇用推進の担当者は少数という例は少なくない。このような体制では、受け入れ組織の整備や、社員への障害者雇用への理解を深める活動などが停滞してしまう恐れがある」

 企業が利益だけを追求して社会に容認される時代は、すでに終わった。さまざまな配慮をして障害者を受け入れる努力をし続けないと、企業価値を上げることはできまい。障害者雇用に向けて人手をかけ、受け入れ態勢を整備する覚悟が今、問われている。(ジャーナリスト・安井孝)

AERA 2018年4月9日号