同社では宅急便の生みの親の小倉昌男氏(故人)が93年にヤマト福祉財団をつくり、障害者の自立と社会参加を支援してきた。98年にはベーカリーチェーン「スワン」を設立し、知的障害者らがパンを焼き、販売する店のチェーン展開を始めた。現在は全国に26店があり、約350人の障害者が働く。スワンの松本行雄社長は言う。

「障害者に働ける環境を提供することが私たちの使命。お店の戦力としてもなくてはならない存在になっている」

 ヤマトグループ全体では全国の宅急便の営業所や配送センターなどでも約2300人が働く。17年3月の雇用率は2.15%で昨年度までの法定雇用率を上回っている。昨年発表した中期経営計画では、19年度の障害者雇用率を2.5%とし、障害者の雇用をさらに増やす方針だ。

 一方であくまで雇用率の引き上げとは別の目的があるとする同社。人事戦略担当者は「法定雇用率を意識しての雇用ではない。会社としてダイバーシティーを推進し、その結果として法定雇用率を上回っているにすぎない」とし、今はグループ各社の人事担当者を集め、障害者をもっと受け入れるためにどんな仕事があるのか、どう対応すればいいのかの研修を重ねて、さらに働く場の拡大を模索中だという。

 ダイキンやヤマトなどをはじめとする積極的な企業にとっては「引き上げられた法定雇用率の達成は難しい」という状況ではなさそうだ。ただ、日本企業の現状は必ずしも楽観できない。従来の法定雇用率2.0%を達成できた企業は半数止まり。従業員数が100人超で雇用率が達成できない企業は、不足人数について1人当たり月額5万円の納付金を納めなくてはならない。障害者雇用に関する支援コンサルティング会社「NANAIRO」(本社・東京)の渡邊淳・法人営業部リーダーは「会社が本気にならないと達成は難しいのが現実だ」と指摘する。どういうことか。

 実は今回の法定雇用率の引き上げの背景には、精神障害者の雇用義務化があるのだ。

 法定雇用率は障害者を含めた労働者数と失業者数の総数に対する障害者の労働者と失業者の総数の割合。つまり日本社会で働く人と失業中だが働きたいと思っている人のうち、働く障害者と働きたいと思っている障害者の割合を出したのが法定雇用率。今回、この数に精神障害者が入ったため、数値が上がったわけだ。厚生労働省の担当者は「数字自体は労働市場の現実を反映したもので、達成がとても難しいという目標数値ではない」と言う。

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