ただ、地元と全国の温度差は感じます。「翔ぶが如く」では鹿児島弁に字幕スーパーが出て、全国の皆さんはホッとしたでしょうが、地元の人は憤慨したんです。「西郷どん」の鹿児島弁は字幕がないので、全国の人は戸惑っているかもしれませんが、今度は「あんなに簡単なのにわからないのか!」と、地元の人は憤慨しているようですよ。

川路利樹:「翔ぶが如く」の頃は僕はまだ中学生でしたが、福島県出身の西田敏行さんが西郷を演じて、今回の「西郷どん」ではナレーターをされているのが、感慨深いです。西郷を演じる西田さんと鈴木亮平さんの対比にも注目しています。けれど、ここはやはり、(西郷)隆太郎さんの意見が聞きたいですね。

西郷隆太郎:私も「翔ぶが如く」の記憶は薄いんです。「西郷どん」の鈴木亮平さんは、演技も鹿児島弁も上手で、島津斉彬(なりあきら)公に見いだされる前の不器用な姿を印象的に表現されていました。斉彬公が戦国大名の義弘公の言葉を引用する場面など、島津家の描き方も丁寧だと感じます。けれど、もし、あえて言うならば、斉彬公を隆盛が相撲で投げ飛ばすシーン。お仕えする殿を投げ飛ばすなんて、あれはありえないですよ!

坂本匡弘:ははは、そうですよね(笑)。「西郷どん」には、斉彬公と接する場面が結構ありますが、さすがに殿様とあんなに簡単には会えないでしょう。

島津久崇:義弘公はお忍びが好きで、城を抜け出して城下に出入りしていたという話は聞いたことがありますが、あそこまでふれあいはなかったでしょうね。

坂本:久崇君は、「翔ぶが如く」の頃はまだ生まれていなかったよね。実は僕も見ていないんだ。放映は、バブルの末期で忙しくて。仕事の後は毎日のように飲んで、ディスコにも行っていたし、それどころじゃなかったなあ。洋子さんはどうですか。

大久保洋子:私はドラマや小説は史実をベースに憧れを込めて作られた、いわば浮世絵のような、いい意味でのフィクションだと考えて、一定の距離をもってとらえています。「翔ぶが如く」は、東京育ちの私にとって、鹿児島の言葉は難しかったことを覚えています。「西郷どん」では大久保役の瑛太さんも鈴木亮平さんも熱演されていますね。視聴者の皆さんに関心を抱いていただけるきっかけになるのではないでしょうか。

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