片渕監督の感想を「とても嬉しい」と語るバラス監督。

「成長する中で、多くの日本のアニメを観てきました。『火垂るの墓』は泣きながら観たし、『マイマイ新子』はもちろん、『もののけ姫』もテーマや世界観が素晴らしかった。それから『おおかみこどもの雨と雪』は美しかったし、そうそう『鉄腕アトム』も大好きです(笑)」(バラス監督)

 一方の片渕監督も、「アニメーションならば、自分でもできるな!と思えるけれど、人形アニメーションは、魔法としか思えない(笑)。すごいな、と思います」と、賛辞を惜しまない。

「ズッキーニ」の原作は、ジル・パリスの小説だ。フランスで25万部を売り上げたベストセラーだが、野菜の名前がついた作品といえば、ジュール・ルナールの名作『にんじん』を思い出す人もいるだろう。

 フランス語でズッキーニを意味する「クルジェット」は、比喩的に「石頭」「のろま」を意味する「クルジュ(かぼちゃ)」を連想させる。決して良い意味でつけられた呼び名ではないが、主人公のイカールは母親との思い出につながる“ズッキーニ”という呼び名にこだわっている。

 母親が事故死したあと、ズッキーニが入ることになった「フォンテーヌ園」は、親がアルコールや薬物の依存症だったり、移民のため強制退去させられたり。犯罪、育児放棄、性的虐待など、深刻な背景を抱えた子どもたちが心に傷を負いながら暮らす場所だった。このあたりは、『にんじん』を連想させながらも、現代ならではの子どもを巡る状況をリアルに描いている。

「最初はCGを作っていましたが、ストップモーション・アニメの制作が実写映画に近いと気づいたんです。実写とアニメの中間くらいといいますか。人形は役者と同じように演出することができます。こちらの気持ちを込めやすい」(バラス監督)

 制作時には、シンプルに撮影でき、アニメーターが動かしやすいように、マグネットで顔のパーツが取り付けられる工夫をした。表情を出すのは「福笑い」で顔を作るのに似ているそうだ。

「子どもたちは大人たちと同じように、環境が激しく変化する生きにくい状況に置かれています。困難をどのように受け入れ、自分の直面している残酷な現実を他人と分かち合って乗り越えていくかを描くことが、アニメーションを作るうえで大切だと考えました。それは私だけではなく、作品に携わったスタッフ全員の思いです」(バラス監督)

(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年2月26日号