コアなファンを持つストップモーション・アニメに、新たな傑作が登場した。谷川俊太郎、片渕須直、峯田和伸が絶賛する、その世界とは。
人形(パペット)だからこそ伝えられる、切実な感情がある。
第89回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされた「ぼくの名前はズッキーニ」(以下「ズッキーニ」)は、スイス、フランス合作のストップモーション・アニメ。
フランスでは80万人、スイスでは20万人の動員を記録し、世界各国で上映が始まっている。
「自分が子どもだった頃、テレビで宮崎駿と高畑勲の『アルプスの少女ハイジ』を観て印象的だった。ハイジもズッキーニと同じように孤児として生きていく子どもの話でした。初めて原作を読んだ時、自分が子どもだった頃の記憶が蘇ってきて、今度は自分が困難な状況のなかで生き抜いていく物語を、子どもたちに見せる順番じゃないかと思ったんです」
と語るのは、来日したクロード・バラス監督。
ひとコマずつ撮影するストップモーション・アニメは、とにかく手がかかる。そのぶん、コップを手に取るといった何げない仕草も、丁寧に観ることができる。CG全盛の時代だからこそ、手触りを感じるフィルムの力が観客に響くのだろう。
日本語吹き替え版は、NHKの朝ドラ「ひよっこ」で国民的な人気を得た峯田和伸さんが主役で初の声優に挑戦。主人公の初恋の相手、カミーユを麻生久美子さん、理解ある警察官をリリー・フランキーさんが演じる。
バラス監督が好きだという「マイマイ新子と千年の魔法」「この世界の片隅に」の片渕須直監督も作品に共感し、来日中のバラス監督を日本大学芸術学部での自らの授業に招き、特別講義をおこなった。
「学生たちは熱心に観ていて、『展開が面白かった』という感想が多かったかな。僕が子どもだった頃は児童映画というジャンルがあって、子どもに向けて語りながらも、周りの大人の世界も描いている作品があった。アニメーションも最初は子どものものだったはずなのに、いつの間にか映像の世界に子ども向けの作品が減ってしまった。『ズッキーニ』を観た学生たちは、子どもの頃に観ておくべきだったものを今観た、という感じだったのかもしれません」
片渕監督はそう話す。
「『ズッキーニ』のように、子どもたちがこれから直面するかもしれない出来事を予感させたり、考えさせたりするような作品は、もっと作られるべきだと思いました。なにより作品のなかの人形がとても表情豊かで、観ていて嬉しいんですよね」(同)