ルワンダ虐殺を描いた「ホテル・ルワンダ」は世界中で話題となり、日本では上映を求める署名運動によって公開された。監督も映画が起こす、大きなうねりを感じたという。

「映画を見た人がさまざまな行動を起こしてくれました。ブッシュ大統領(当時)が2回見て、ドン・チードルが演じた実在の人物に勲章を与え、03年の『ダルフール紛争』に目が向くきっかけにもなった。残念なことにいまの世界の現状を見ると、歴史は繰り返してしまうものかもしれない。それでも映画が人道面に訴え、草の根的な運動につながっていくことを実感できました」

 たしかに世界の状況は決して明るくない。どう行動すべきか。

「懸念はトランプ政権以後、世界中に難民を恐れ、忌み嫌う風潮が高まっていることです。しかし、こう考えてはどうかと思うのです。例えばシリア難民は砂漠と地中海を越え、ギリシャに渡り、さらにドイツやオランダへと、よりよき生活を求めて移動していく。相当の忍耐と根気が必要で、それだけで彼らは“優良な市民”だといえる。その経験をそのまま自国民として受け入れるライセンスにしてもいいくらいではないか、と」

 映画の最後に主人公は言う。「僕たちは、まだここにいる!」

「世界中に散ったアルメニア人たちこそ、歴史が教えてくれる教訓。どんなに残虐で恐ろしい悪にさらされても、人間は強靱な精神のもとでサバイブすることができるのです」(監督)

(ライター・中村千晶)

AERA 2018年2月19日号