「修行中は死装束である白衣を身に着け、羽黒山、月山、湯殿山に入ります。道中は死出の旅で、修行を通して一度死に、最後に湯殿山で生まれ変わって、帰ってくる──よくできた流れです。宗教が生活から存在感を失っている現代ですが、人間には精神的な活動が必要なのだと思います」(前野さん)

 会社役員として多忙な日常を過ごす菅野綾子さん(52)も昨年、星野さんのもとで修行をした。

「大いなる自然の中で生かされているという感覚を持ち、結果ではなく一歩ずつ積み重ねていくプロセスが大事だと再認識できました。急がず焦らず、身体性を感じながら、物事を進めていけるようになったと思います」

 星野さんが言う。

「修験道に関する本を読めば、頭での理解はできるでしょう。けれど本来の修験道とは、大自然の中に己の身をおいて、感じたことについて考える学問であり、哲学なのだと思います」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年2月19日号より抜粋