羽黒山伏 星野文紘さん(山伏名・尚文)/1946年生まれ。71年、秋の峰に入峰。2007年に冬の峰百日行の松聖。08年、松例祭の所司前(羽黒権現役)。出羽三山神社責任役員理事(撮影/今村拓馬)
羽黒山伏 星野文紘さん(山伏名・尚文)/1946年生まれ。71年、秋の峰に入峰。2007年に冬の峰百日行の松聖。08年、松例祭の所司前(羽黒権現役)。出羽三山神社責任役員理事(撮影/今村拓馬)

 鎌倉・建長寺の堂内に、羽黒山伏・星野文紘さん(山伏名・尚文)が吹く法螺貝の音が響く。うねるような法螺貝の音は広い堂内の隅々にまで行きわたり、日本人、外国人、性別や年齢もさまざまな100人あまりの人々が、星野さんを見つめる。

 山伏とは修験道の行者のこと。星野さんは山形・羽黒山伏最高位の「松聖(まつひじり)」であり、宿坊「大聖坊」の13代目だ。

 この日、禅と深い縁がある鎌倉で、マインドフルネス国際フォーラム「Zen2.0」が日本で初めて開かれていた。星野さんは「禅と修験道 日本人と山の思想性」という講演をおこない、終了後には鎌倉山を祈りながら歩いた。

 星野さんは修行を願う一般の人々を、長年にわたり自らの宿坊「大聖坊」に受け入れ、体験修行をおこなってきた。

 日常では触れ合う機会のない山伏の世界を、五感に訴えるように語りかける星野さんを、修行の導き手としての敬意をこめて「星野先達」と呼ぶ人も多い。

 Zen2.0の主宰者のひとりである宍戸幹央さん(44)は、2014年に星野さんのもとで山伏修行をした経験を持つ。海外で発達したマインドフルネスに、日本古来の叡智をつけたうえで、海外に再発信できればと考え、星野さんに講演を依頼したという。

「現代社会では思考過多になりがちですが、山伏の世界観に触れるとそのバランスが整うと感じます」(宍戸さん)

 修行中はスマートフォンやパソコンが禁止なのはもちろんのこと、羽黒山では、名前を呼ばれても何かを頼まれても「受けたもう」以外の言葉を発してはいけないのだという。

「今は言葉が多すぎる。『受けたもう』とだけ答え、自然の中で過ごしていると、自分の五感がどんどん研ぎ澄まされてくる。言い換えれば『感じる知性』というべきものが目覚めてくるんだな」(星野さん)

 同日に「意識と無意識 悟りと幸せ」をテーマに講演をおこなった慶應義塾大学教授の前野隆司さん(55)。「幸福学」を提唱している前野さんも、「研究者としての関心もあって」、昨年、山伏修行に参加した。

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