「子どもって、時間はかかるけれど、実は何でもできる。大人にできるのは、信じて見守る、ということだと思うんです」

 二つ目は、本気の大人に出会う、ということだ。これまでに講師を務めたのは、中江裕司監督、是枝裕和監督、萩生田宏治監督など。「作品のなかで子どもが生き生きと描かれているかどうか」を基準に依頼する。

「映画エリートを育てたいわけではないんですよね」

 と土肥さん。必ずしも映画に興味などなかった子どもが、映画づくりを通して個性を発揮しながら自信をつけていくさまに、一番胸躍るという。

「例えば、絵を描くということは、苦手意識がある子にとっては苦痛でしかないと思う。でも、映画ならどこかに自分が活躍できる場を見つけられるのではないか。カメラの前に立つことも、後ろに回ることもできる。映画は教育現場でも有効だと思うんです」(土肥さん)

 これまで何度も講師を務めてきた諏訪監督は、こども映画教室に着想を得て、フランスの子どもたちと映画「ライオンは今夜死ぬ」を撮った。オーディションは行わず、「何かをつくるのが好き」という子どもたちとワークショップを重ねることから始めた。必ずしも「映画に出たい」という子どもたちではなかったが、諏訪監督いわく、

「子どもたちは、『こうしたらどうだろう』と口にする前に、カメラを持って走り始める」

 子どもたちに映画の仕事に就いてほしいという強い思いがあるわけではない。でも、

「カメラにはそこに映るモノや人をそのまま映し、肯定する、という力がある。いまの日本の子どもたちは自己肯定感が低いと言われていますが、『あなたを丸ごと肯定します』という映画の力を子どもたちの成長に生かすことはできるのかもしれない、と思います」

 日本初の子ども映画祭「キネコ国際映画祭」のフェスティバルディレクター、田平美津夫さんによると、30もの国が子どものための映画祭を開催している。

「子ども映画祭の歴史が古いイタリアやチェコといった国だけでなく、近年は中国や韓国でも、国主導で『子どもと映画』に力を入れている。子どもたちと映画を観る、映画をつくるという、“映画キャンプ”も存在するんですよ」(田平さん)

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