「ビジネスプラン演習」では、受講生たちの事業計画に田中勇一学長が自らアドバイス=東京都千代田区の社会起業大学で(撮影/編集部・渡辺豪)
「ビジネスプラン演習」では、受講生たちの事業計画に田中勇一学長が自らアドバイス=東京都千代田区の社会起業大学で(撮影/編集部・渡辺豪)

 30代から50代まで、男女7人が参加する「ビジネスプラン演習」は熱気に包まれていた。30代の女性が立ち上がり、オーダーメイドのジュエリーショップのビジネスプランをプレゼンテーションする。

「私のミッションは、ジュエリーにかかわるすべての人が幸せになる商品を提供すること」

 印象に残ったのは、起業の動機に連なる個人的な体験を包み隠さず打ち明ける姿だ。

「1年半前に娘を授かって、人生観が大きく変わりました。いろんな人に助けられながら生きていることを強く実感するようになったのです」

 現在は、都内のジュエリーショップに勤務している。

「私は、部長であり妻であり母です。これらの役割をうまくこなしながら、効率や利益を追求するためだけに商品を提供するような働き方をするのではなく、本当に誰かが幸せになり、喜んでもらうためにジュエリーをつくりたい」

 この演習を行うのは、東京都千代田区にある社会起業家の育成に特化したビジネススクール・社会起業大学だ。社会起業家になりたいという若者は多いが、事業統括の瀬田川史典(せたがわふみのり)さん(36)は、社会起業家には人脈の構築や資格取得、資金調達といったテクニカルな課題と向き合う前に、「こういう社会をつくりたい」という明確な目標やビジョン、「自分が心からやりたいと思うこと」を見いだすことが求められると話す。

「私たちはスキルやノウハウだけでなく、ソーシャルバリュー(社会的価値)を高めるためのカリキュラムを提供しています」(瀬田川さん)

 重視するのは「自分らしさ」「社会貢献力」「ビジネス力」。自分らしさと社会貢献力の重なりが「ミッション(志)」に、社会貢献力とビジネス力の重なりが持続性に、そしてビジネス力と自分らしさの重なりが差別化につながる、というのが考え方の基本だ。

 その最初のステップとして、自らの原体験や人生観に根差した思い、本当の強みに気づくため、「自分らしさとは何か」を、自己の振り返りと他者からのフィードバックで徹底的に深めるのだという。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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