ある日突然、家族が起こした犯罪によって加害者家族となる。家族としての責任を問われ、好奇の視線にさらされ、場合によってはメディアに追われる。その結果、仕事を失ったり、転居を余儀なくされたりして、過酷な現実を受け止められず自殺に追い込まれるケースも少なくない。

「欧米では、慈善団体や宗教団体が加害者家族支援に取り組んでいます。しかし日本では、事件を起こした加害者家族は責任を負わされ、守られていないどころか、人権すら侵害されています」

 そう話すのは、犯罪加害者家族の支援に取り組むNPO法人「ワールド・オープン・ハート」(仙台市)の理事長で、『息子が人を殺しました─加害者家族の真実』(幻冬舎新書)の著書がある阿部恭子(きょうこ)さん(40)。東北大学大学院で犯罪被害者について研究を行っていた時、罪を犯した加害者側の家族にも、被害者家族と似たような境遇に追い込まれ、自殺までしていたケースがあることを知った。日本では加害者家族に対する支援や研究はほとんどされていなかった。2008年、全国初の試みとして加害者支援のNPOを立ち上げた。

 同NPOでは、これまで1千件近い相談を全国から受けてきた。そのうち930件を分析すると、86%が「自殺を考える」と答えた。他にも「外出が困難」(84%)、「楽しいことや笑うことに罪悪感を抱く」(83%)など、いったん加害者家族になると一生消えない深い傷が刻まれることがわかる。「結婚破談」(39%)や「進学や就職を諦める」(38%)など、人生に大きな傷を残すケースもある。さらに「殺人者の家族」として、何十年も重い十字架を背負う人も少なくないという。

「日本の場合、加害者家族にメディアが殺到するメディアスクラムが起きやすく、その結果、加害者家族の人権やプライバシーまで侵害され、加害者家族は精神的にも物理的にも追い詰められていきます」(阿部さん)

(編集部・野村昌二)

AERA 2018年1月22日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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