2008年のリーマン・ショックを解決する際、各国政府は莫大な公的資金を銀行や投資銀行に注入したが、これを契機に危機のとばっちりを受けた一般庶民は激しい怒りの声を向けた。ハイリスク投資を蔓延させて、巨利におぼれた危機の張本人たちを救う形となったからだ。一方、公的資金を得たとはいえ、多くの巨大銀行などは経営難に陥った。大規模なリストラが断行され、金融パーソンたちは路頭に迷うこととなった。

 失業した金融パーソンと社会の信頼を喪失した銀行が這い上がる礎となったのがフィンテックだった。失業した金融パーソンは専門知識とITを駆使した金融ビジネスモデル、つまり、さまざまなフィンテックを考案するとともに、銀行はそれを積極的に生かして、顧客サービス向上による信頼回復を急いだ。

 翻って、わが国の銀行業界はどうだったか。リーマン・ショックの余波が軽い「平和の日々」のなかで、変化のインセンティブが働かなかった。これが「平和の代償」にほかならない。

 だが、さすがに銀行業界も動きだした。三井住友フィナンシャルグループ(FG)はNTTデータ、Daon社と共同で生体認証を活用した本人確認プラットフォームを提供する会社を立ち上げた。三菱UFJFGも銀行業の高度化に向けた調査・研究やシステム開発などを担う新会社を設立。

 今後、こうした取り組みが加速することはまちがいないが、かといって、即効的に果実が得られるというわけではないだろう。(金融ジャーナリスト・浪川攻)

AERA 2018年1月22日号より抜粋