浅田次郎の長編ファンタジー 物語を支える「舞台装置」とは

沢田竜次AERA
 浅田次郎さんが上梓した長編ファンタジー小説「おもかげ」は、ある男性の不思議な体験を描いた作品だ。作品では“あるもの”が舞台装置として物語を支えている。

<ここはどこだ。僕はいったい、何をしている。どうやらベッドに寝ているらしいが、薬でも嗅がされたのか、体が動かなかった。だが、恐怖感はない。それどころか、ぽかぽかと暖かくて、とても幸せな気分だった>

 竹脇正一。昭和26(1951)年生まれの65歳。商社マンとして定年を迎えたが、送別会の帰りに倒れ救急搬送された。集中治療室で昏睡状態の竹脇は、身内や幼なじみに見守られながら不思議な体験をする。彼はベッドに横たわる自分の体を横目に、時間と空間を超越するように様々な人たちと出会い、語らう。

 一途に生きてきた65歳の男の「幸福」とは何か。この世代は何を見てきたのか。一人の男のサラリーマン人生と時代の記憶、世代を超えた過去との対話、人と人とのつながりが織りなすドラマが、胸を熱くさせ心を揺さぶる。

「昭和26年生まれというのは特別な世代ですよ。上の世代ほど食い物に苦労していないしガツガツとした競争もない。高度成長時代に合わせて自分も成長してきた。大した努力をしなくても世の中からもらうものは一番多かった。この主人公はそんな幸福な世代で、上出来の人生だったと」

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