出合いの伏線は今からほぼ100年前。スイス連邦工科大学の教授だったアインシュタインはある計算に取り組んでいた。1915年に作った重力理論「一般相対性理論」の応用で、星のような大きな質量を持った物体が激しく運動すれば、“時空間のひずみ”が発生し、波として周囲に伝わるはずという計算だ。18年には「重力波について」という論文にもなったが、複雑な方程式の正確な解析は難しく、当のアインシュタインさえその存在を疑った。重力波の有無は「宿題」となり、挑戦者はなかなか現れなかった。


 
 20世紀の中ごろまでに、星の一生の研究が進んだ。燃え尽きた星は物質の巨大な重力に耐えかねて爆発、カチカチに詰まった中性子星や強すぎる重力で物質も光も外へ出ないブラックホールになるとわかり、強い重力現象への興味が高まった。

 1950年代末、米国メリーランド大学のジョセフ・ウェーバーはアインシュタインの宿題を思い出した。重さ1トンのアルミ製円筒形棒で、重力波の「アンテナ」を製作。重力の振動を感じて棒が伸縮する、と考えたわけだ。69年、彼は「重力波を検知した」と会議で発表したものの、多くの研究者が追試してもうまくいかない。重力波はこき下ろされ、70年代中ごろには誰も信じなくなった。しかし、彼は死ぬまで実験を続けた。

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