さらに、重力波事象の1.7秒後、閃光のようなガンマ線(波長がとても短い電磁波)の観測が報告されたのをきっかけに、その方向の可視光、赤外線、紫外線、電波などの観測から次々と「状態が急変した星」の報告が寄せられたのだ。つまり、星が衝突し重力波を出した場所が「見えた」ことになる。これまで普通の恒星では鉄までの元素しか作れないと分かっており、それより重い金、プラチナ、ウランなどの元素は宇宙のどこで作られたかは謎だった。中性子星こそそういう元素を錬金する「かまど」ではないかともいわれていたが、今回の「中性子星衝突」の観測で、その兆候が1億3千万光年の彼方に見えたのかもしれない。

 岐阜県神岡に建設中の「KAGRA」も間もなく観測を始める。1990年から7年間、LIGOで“雑音狩り”に尽力した川村静児・東京大学宇宙線研究所教授は、「宇宙誕生から宇宙を真っ直ぐに飛び続ける重力波を見れば、その瞬間をキャッチできるに違いない」と著書で断言する。

 宇宙を見る「眼」は、これまでの光や電波に、重力波、ニュートリノも加わった。宇宙から来る数え切れない種類の「お使い」を捕まえる新たな天文学時代の幕が開けた。(文中敬称略)(科学ジャーナリスト・内村直之)

AERA 2017年11月13日号