ジッケンオフィス内は体を鍛えるようにアイデアを練る「GYM(ジム)」やブレストで意見をぶつけ合う「RING(リング)」など八つの空間に分かれている(写真部・小山幸佑)
ジッケンオフィス内は体を鍛えるようにアイデアを練る「GYM(ジム)」やブレストで意見をぶつけ合う「RING(リング)」など八つの空間に分かれている(写真部・小山幸佑)

 人との出会いで生まれるものがある。才能が引き合って起こる化学変化。いままで無意識にしていた「会う」ことを考え直すと、新たな景色が見えてくる。

 特技はナンパです、そう言い切る女性がいる。2016年11月にヤフー社内にオープンしたコワーキングスペース「LODGE(ロッジ)」を担当する中川世梨乃さんだ。肩書は「コミュニケーター」。仕切りのない広々としたスペースには、さまざまなバックグラウンドを持つ社内外の人々が集う。ユーザー同士をつなぎ、交流を促すのが中川さんの仕事だ。

 黙々とパソコンに向かう人はもちろん、たまたまカフェのドリンク待ちで隣り合った人など、あらゆる人にお菓子を配りながら話しかける。どんなビジネスをやっているのか、今後何をしたいのか、困っていることはないかなど、ユーザー情報をインプットするためだ。しかし、約1330平方メートルの広大なスペースには毎日200~300人が訪れる。

「コツをつかむまでは端から端まで聞きまわるだけで半日かかっちゃいました。よく声もかれてましたね」

 と中川さんは苦笑する。当初はファッションや出版など同じ業界の人同士を紹介することが多かったが、今は職種や会社の規模にかかわらず、ニーズが合致する人たちをつなぐようになった。

 LODGEを週3日利用する、アブログ合同会社CEOの内田誠さん(33)もその一人だ。語学留学の申し込みサイト「ラングペディア」などを運営している内田さんに「ターゲットが似ているんじゃないかと思って」中川さんが紹介したのは、大学のキャリアセンターで講義をする男性。その後、男性が担当する大学の講座で内田さんは自社のPRチラシを配ることができたという。

「大学内のセミナーは縁がないと関われないので助かりました。ここでの出会いは良い意味でゆるいので、ガチの営業にならず、気軽に頼みごとできるのがいいですね」(内田さん)

 他にも、新規事業のテストマーケティングをしたいと考えていたとき、偶然斜め向かいに座っていた知人に相談してアドバイスをもらったこともある。メールやSNSのメッセージだとちょっとした相談も重大な依頼のように誤解されることもあるが、「それならあの人が詳しいですよ」「こんな技術もありますよ」とサクッと言い合えるのは対面ならではだという。

 商品開発のファシリテーターとして「スプリント ジャパン」を主宰する夏本健司さん(47)はオープン当日から週5日通ってきた。ここでの出会いがビジネスにつながったこともある。夏本さんはLODGEを「江戸時代の長屋」のような場所だと感じている。

次のページ