「いくら大企業でもやっぱり社内の人とだけ交流していると多様性に欠けます。私はスタートアップの皆さんの前のめりな姿勢に刺激を受けて、世界も広がり人生観も変わりました。これからも良い出会いをつくって、LODGEを進化させていきたいです」(中川さん)

 現在取り組んでいるのが「ジッケンオフィス」プロジェクトだ。

 人数と音声の周波数から会話の盛り上がりを計測するセンサーを各所に設置し、オフィス家具とその配置はコミュニケーションを促進できるのか科学的に検証している。

 そもそも人と話すというコミュニケーションは、互いの時間をやり取りすることだ。この「時間」に注目し、その価値を可視化しようというアプリ「タイムバンク」が話題を呼んでいる。株取引のような仕組みで、株価や時価総額にあたる「秒単価」「時間総額」という独自の指標を使い、芸能人やビジネスパーソンなどその分野の専門家の時間価値を算出し、売買する。運営はビッグデータ解析などを行う金融ベンチャーのメタップスだ。LINE上級執行役員の田端信太郎さんや幻冬舎の編集者・箕輪厚介さんなどが参加しており、箕輪さんのある日のツイッターには「今日は田端さんとご飯。二人の時間価値で考えると1時間130万円飲み会です」という投稿がある。9月の月間ランキングでPV、売買時間、時間保有ユーザー数でトップになったはあちゅうさんの秒単価は1秒あたり137.5円、時間総額は2384億円にものぼる。(2017年10月16日時点)

「これまで自分の成長をはかるものさしは収入以外になかった。今年は小説にすごく時間を割いて他の活動を制限したので年収がガクッと下がってヒヤヒヤしていたんですけど、こうして今の私を認めてくれる人たちがいることが分かって、人生を肯定してもらえたようですごくうれしかったですね」(はあちゅうさん)

 人生そのものに莫大な価値がつくことで、目先の収入ではなく、理想を追う生き方を大勢ができるようになると信じられたそうだ。ちなみに今回AERAがはあちゅうさんに取材でもらった1時間をタイムバンクで実際に購入するには、49万5千円が必要だ。

 コミュニケーションに割く時間の価値が人それぞれ「算出」される世界は、すぐそこに来ているのかもしれない。(編集部・竹下郁子)

AERA 2017年10月30日号